【9月18日 東方新報】中国の民話を題材にしたディズニー(Disney)映画の最新作『ムーラン(Mulan)』が、米国でも中国でも評判が芳しくない。しかも、それぞれ不評の理由が異なっている。

「花木蘭(Hua Mulan)」は、中国人なら誰でも知っている伝説のヒロイン。花が名字、木蘭が名前だ。南北朝時代の北魏の民謡「木蘭辞」が脚色されて広まった。北方民族の侵略に対抗するため各家庭から男性1人を徴兵する皇帝の命令を受け、病弱な父親に変わってムーランが男性兵士に変装し、戦場で活躍する物語だ。ディズニーは1998年にアニメ『ムーラン』を製作し3億ドル(約315億円)を超えるヒットとなった。

 実写版『ムーラン』は2億ドル(約210億円)を投じて製作され、主演は中国出身女優の劉亦菲(リウ・イーフェイ、Liu Yifei)。他にも鞏俐(コン・リー、Gong Li)、李連杰(ジェット・リー、Jet Li)など大物中華スターが登場する。もともと今年3月に全米公開の予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で4回も延期を発表したのち、今月4日からディズニー公式動画配信サービス「Disney+」でプレミア配信をスタートした。しかし、その評判は芳しくない。世界最大の映画・海外ドラマレビューサイトIMDbの10段階評価で平均5.7にとどまり、19%が「最低」の1ランクを選んだ。

 不評の大きな要因が「ミュージカルがない」こと。ディズニーは1990年代にヒットしたアニメを次々と実写版にリメークし、『美女と野獣(Beauty and the Beast)』や『アラジン(Aladdin)』の実写版で10億ドル(約1051億円)以上を稼いだ。『ムーラン』もこの流れに沿ったのだが、実写版でもミュージカルのあった『美女と野獣』『アラジン』と違い、物語を重視。さらに、アニメ版でコメディーの役割を担ったムーランの守護竜ムーシュー(Mushu)が登場せず、シリアスな作風になっている。アニメをイメージして作品を見た人たちには「期待した内容と違う」という戸惑いが出ている。

 一方、アジアでは台湾やタイで4日から映画館で上映され、売り上げ1位を記録。そして、ディズニーが最大のターゲットとする中国本土の映画館で11日から上映を開始されたが、ここでも評価は低かった。大手映画レビューサイト「豆弁(Douban)」では、10段階評価で4.7の評価にとどまっている。レビューには「ムーランがまるでスーパーマンか超能力者になっている」「北魏の時代にはない土楼や太極拳が登場する」「西洋人が思い描く典型的で身勝手な中華文化」など、アクションシーンや従来の作風との違いに批判が寄せられている。

『ムーラン』実写版の製作が発表された2016年は、「ハリウッドは白人中心主義。有色人種を差別している」と批判が巻き起こっていた時期。「ムーランに白人俳優を起用しないで」と求めるネット署名に10万人の署名が集まった。『ムーラン』はディズニー史上初めてアジア人俳優が主役の映画となった。現在も深刻な人種問題が続く米国で、アジア人女優が主役の大作が誕生したことは喜ばしいはずだが、米国でも中国でもあまり歓迎されない残念な結果となっている。(c)東方新報/AFPBB News