【9月19日 AFP】フランスの中央高地(Massif Central)を照らす朝日の中で、2500匹もの雌羊の群れが鈴の音と共に駆けていく。ロゼール山(Mont Lozere)から30キロ下の谷に向かう「移牧」、つまり移動放牧の群れの中でも最大規模だ。ただこの伝統も、近年はその存続が脅かされている。

 雌羊の群れは毎年、標高1699メートルのロゼール山周辺の牧草地で夏を過ごし、9月初めになると谷の放牧地の方へ再び下りていく。

 コース(Causses)とセベンヌ(Cevennes)地方に新石器時代から伝わるとされるこの移牧の風景は、2011年に国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産(World Heritage)に登録された。

 しかし、この移牧が、林業者や狩猟者、観光客、太陽光・風力発電所の開発業者らと土地を争うという新たな課題に直面している。中でも頭を悩ませているのが、オオカミの出現だ。

「難しい仕事を持ったものだ」と語るのは、自身も牧羊業を営む、ロゼール(Lozere)県プレバンシェル(Prevencheres)のオリビエ・モラン(Olivier Maurin)村長。

「経済的な困難はいつでも乗り越えてきたが、今われわれの歩みを阻む唯一の要因があるとすれば、それはオオカミだ。2011年から移牧の群れが襲われており、精神的な打撃を受けている」と漏らした。

 群れへの保護策や、家畜に被害が出た際の補償策に不信感を持つモラン氏は、オオカミを保護対象から除外するとともに、「本格的な規制」を求める運動に乗り出している。モラン氏の立場は、牧羊業者側がオオカミと共生するすべを身に付けるべきだと主張するオオカミの保護活動団体からは強い反発を受けるが、ロゼールでは昔からある見方だ。

 モラン氏は、移牧は「環境に配慮した農業形態、生物多様性の保全、上質な食料の提供といった、社会からの期待に応えるもの」でもあり、保護されてしかるべきだと訴えている。

 村に住むある高齢の女性は「夏の放牧地から雌羊の群れが下りてくる様子を見るのは良いもの。活力をもたらす美しい伝統だ」と愛着を語った。(c)AFP/Isabelle LIGNER