【9月4日 AFP】第2次世界大戦(World War II)中にナチス・ドイツ(Nazi)が占領下のフランスで略奪した19世紀の油彩画が、元の所有者を見つけ出すという望みを託され展示されている。上官の命令でこの絵画を持ち出したドイツ軍兵士の息子が、76年の歳月を経てフランスに返還した。

 仏北東部の町ベルダン(Verdun)にある「平和、自由、人権世界センター(World Centre for Peace, Liberty and Human Rights)」に展示されているのは、フランス人画家ニコラ・ルソー(Nicolas Rousseau)による小さな無題の絵画だ。作品の横には「この風景が分かる方、またはこの作品についての情報を持っている方は、ぜひお知らせください」とある。

 同センターのフィリップ・ハンシュ(Philippe Hansch)所長は、8月初めにこの作品をドイツのベルリンで引き取り、車で持ち帰ってきた。この2週間は、年間約6万人が訪れる同センターのロビーに掛けられている。この絵を見た誰かの記憶が突き動かされ、作品の所有者または相続者への返還につながればとの希望が託されている。

 作品の中では、曇り空の下で一人の人物が川岸に座っている。背の高い樹木に囲まれ、遠くには村が見える。

 1944年春、ドイツ空軍(Luftwaffe)の下士官だったアルフレッド・フォルナー(Alfred Forner)氏は、仏北部のノルマンディー(Normandy)地方とさらに沿岸部北方のサントメール(Saint-Omer)の間の地域に駐留していた。

 フォルナー氏は休暇を取る際、上官からこの絵画を独首都ベルリンに運ぶ任務を与えられた。だが絵画を届けるよう命じられた住所に行ってみると、その建物はがれきと化していた。

 ハンシュ所長の説明によると「現実的な対処法として彼は自分の家に行き、絵を置いて再び戦線に赴いた」。フォルナー氏は数か月後の夏、戦闘で死亡した。

 38センチ×55センチの小さな油彩画は75年間、ベルリンのフォルナー家の居間に飾られていた。だが昨年1月、息子のピーター・フォルナー(Peter Forner)氏が在ドイツ仏大使館に連絡し、絵画の返還を申し出て、所有者を見つけ出してほしいと打診した。

 ベルリンを拠点とする「略奪被害者補償委員会(Commission for the Compensation of Victims of Spoliation)」のユリアン・アクアテラ(Julien Acquatella)氏によると、ピーター氏は4、5年前から健康に問題があり、長期入院していた。「彼は解決しておくべき物事のリストを作り、この絵画の返還がそのリストのトップにあったのです」とアクアテラ氏は説明した。

 アクアテラ氏によると絵画の展示という異例の試みにより、所有者を特定するとともに、5月に80歳で亡くなったピーター氏の遺志もかなえたいと望んでいる。

 絵画の公式な返還式は大司教宮殿内にある「平和、自由、人権世界センター」で10月に行われる予定だ。作品はその後、年末に計画されている第2次世界大戦終結に関する展示に加えられる。(c)AFP/Murielle Kasprzak