【9月1日 AFP】経済学の「ロックスター」ことトマ・ピケティ(Thomas Piketty)氏は8月31日、最新刊「資本とイデオロギー(Capital and Ideology)」の中国語版はおそらく出版されないだろうと述べた。現地出版社に多数の箇所の削除を求められ、それを拒否したとしている。

「資本とイデオロギー」は世界全体における急速な格差拡大を研究したもので、欧米諸国を追い抜いたとピケティ氏が評する中国の「金権政治」に対する痛烈な批判を含んでいる。

 ピケティ氏はAFPの取材にメールで答え、「要するに彼ら(中国の出版社)は現代中国に関するすべての記述、とりわけ中国における不平等や不透明性に関する記述を削除したがっている。私はこうした条件を拒否し、いかなる種類の削除もない、完全な翻訳以外は受け付けない意思を示してきた」と述べた。

 2013年に発表した「21世紀の資本(Capital in the Twenty-First Century)」でピケティ氏は一躍、経済界の世界的スターとなった。

 同書は中国でも数十万部を売り上げ、習近平(Xi Jinping)国家主席は、ピケティ氏が指摘した欧米諸国の格差拡大を中国式共産主義モデルの優位性を示す証拠として引き合いに出した。

 ピケティ氏は香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)の報道を認める形で、「私のフランスの出版社に接触している他の複数の中国の出版社も、やはり削除を求めてくるだろう。よって現時点では、中国本土でこの本が出版される見込みはない」と述べた。

 中国が問題視している箇所は共産主義およびポスト共産主義社会を扱った章で、その中でピケティ氏はロシアの「少数独裁による収奪政治の吹きだまり」と中国の「金権政治」を批判している。

 例えば中国の出版社から削除を求められたという一節でピケティ氏は、欧米と中国を比較した場合、「1980年代初めには3地域の中で最も平等主義だった中国は、2010年代後半には米国よりもわずかに不平等、欧州と比べれば著しく不平等な状態となっている」と述べている。

 また他の箇所ではロシア、中国、一部の東欧諸国は「ハイパー資本主義」の「頑強な同盟国」になったとも指摘。「これはスターリン主義と毛沢東主義、その結果として、すべての国際的な平等主義の志を拒絶した直接的な帰結である」と批判している。(c)AFP