■ペンギンが消えれば、他の海洋生物も…

 東ケープ(Eastern Cape)州の都市ポートエリザベス(Port Elizabeth)の目の前に広がるアルゴア湾は、多種多様な海鳥の生息地だ。特に、国際自然保護連合(IUCN)の「レッドリスト(Red List of Threatened Species)」で絶滅危惧種に指定されているアフリカペンギンは、既に4万羽を下回った全世界の生息数の半数近くが、この地をすみかとしている。

 また、ポートエリザベスにあるネルソンマンデラ大学(Nelson Mandela University)の昨年の報告によれば、湾内では2018年にバンドウイルカの世界最大の群れが確認された。それに、ここは地球上で最も壮大な海中スペクタクルともいわれるイワシの大群の大移動が見られる場所でもある。

 だが、アルゴア湾で20年以上にわたりホエールウオッチング・ツアーを運営しているベテランガイドのロイド・エドワーズ(Lloyd Edwards)さんは、クジラの中にはSTSバンカリングが始まってから、なかなか姿を見られなくなった種類もあると語った。

 一方、アフリカペンギンの生態に詳しいネルソンマンデラ大学のロリエン・ピシュグル(Lorien Pichegru)博士は、燃料流出が起きた場合について「ペンギンの羽毛は、油が付着すると撥水(はっすい)性が奪われる」と指摘。油まみれになったペンギンは卵やひなを守るのを放棄する傾向が高く、最終的には「飢えと寒さ」で死んでしまうと説明する。羽づくろいで油に含まれる有毒物質を摂取してしまえば、内臓の損傷や生殖機能異常も生じる。

 南ア政府の統計によるとアルゴア湾のアフリカペンギンは、2015年には1万900組のつがいの繁殖が確認されたが、2019年には6100組に激減した。

 アルゴア湾からペンギンがいなくなれば、「イルカやオットセイをはじめ、カツオドリやウミウなどの海鳥たちも皆、ここで生きていくのは難しくなるだろう」と、地元の船長は顔をしかめる。ペンギンは群れで魚を1か所に追い込んで狩りをするが、その結果作られる魚の球形群「ベイトボール」は、他の海洋生物にとっても格好の餌場となっているからだ。

 海洋生物が姿を消せば、観光産業は壊滅的な打撃を受ける。

 だが、給油ライセンスを発給する南アフリカ海上保安庁(SAMSA)は、STSバンカリングによって雇用が創出されていると強調。「(海洋)保護区を維持する必要があるのと同時に、われわれは経済発展の機会を活用しなければならない」との見解をAFPに示した。(c)AFP/Sofia Christensen