【9月20日 AFP】疫病によってハエのようにバタバタと人が倒れていった16世紀のフィレンツェ(Florence)で、生き残った人々は小さな窓から出されるワインを飲んで恐怖を紛らわせたという。この窓が、新型コロナウイルスの流行によって復活している。

 高さ30センチ、幅20センチほどの小さな「ワインの窓」は、イタリア・トスカーナ(Tuscan)州の州都フィレンツェの至る所で目にすることができる。貴族の豪邸の表玄関の脇につくられた小窓は、貴族がワインをフラスコに入れて直接顧客に販売するために使われていたが、その後使われなくなった。

 しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)によって、バーなどの店舗がワインの小窓を使ってアペロールスプリッツなどの冷えたカクテルやジェラート、コーヒーなどを提供し始めた。

 ロックダウン(都市封鎖)で大きな影響を受けた飲食店にとって、ワインの小窓はソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)のルールを守りながら、客を呼ぶための手段となった。

 小窓はペストの流行前から存在していた。ワインの小窓に関する著書のある学者マッシモ・カスプリーニ(Massimo Casprini)氏(78)によると、小窓はフィレンツェ共和国が終わり、権力の座に返り咲いたメディチ(Medici)家によってつくられた。

 有数な政治一族であるメディチ家は、「フィレンツェの大地主たちにオリーブの木とブドウ畑に投資させるため、農業を推奨し…生産物を町で直売する場合は税金を優遇した」とカスプリーニ氏はAFPに説明した。

 地主が販売を許されていたのは自家製造のワインのみで、1回あたり1.4リットルが上限だった。

 しかし、この直売によって中間業者が排除され、「庶民は店頭よりも安価にワインを買えるようになった」という。当時は「ワインの消費量が膨大だった」ため、庶民は大いに節約することができたとカスプリーニ氏は笑顔で話した。