■金銭、脚光、嫉妬

 長い地下生活の間、世界が目にした鉱山内部からの映像によく登場したのが、マリオ・セプルベダ(Mario Sepulveda)さん(49)だ。ハリウッド映画でアントニオ・バンデラスさんが演じたのが彼の役だ。

 セプルベダさんは首都サンティアゴ近郊に住み、講演者として各地を旅するなど他の仲間よりも暮らしぶりはいい。昨年はテレビのサバイバル・リアリティーショーで優勝し、賞金約15万ドル(約1600万円)で自閉症児のための施設をつくった。

 落盤によって閉じ込められた直後、それまでほとんど互いを知らなかった労働者たちは即座に団結した。まず中に残った全員の名簿を作り、わずかしかない食料を配給で分け合った。気温35度、湿度も高い暗闇の中、発見されるまでの最初の17日間は全員、2日ごとにスプーン2杯の缶詰めのツナとグラス半分のミルクを口にするだけでしのいだ。

「地下での時間は素晴らしかった。みんなで歌い、夢を語り、物事は民主的に決定し、誰もやけは起こさなかった」とセプルベダさん。だが、地上に戻るとその団結は解消されてしまった。「それぞれの家族が、僕たちの間に分裂を引き起こした」

 一方、最年少のサンチェスさんによると、分裂の原因は金銭だ。映画化や書籍化に関わった弁護士たちが、権利を譲渡させるために「僕たちを分断する」戦略を使ったのだという。

 セプルベダさんやベテラン鉱員の一人だったオマル・レイガダス(Omar Reygadas)さん(67)のように、体験を語ることで今も脚光を浴びている何人かは、「33人クラブ」の中で嫉妬の対象になっている。「金のことばかり気にして、僕たちが経験した全てを忘れてしまった人たちがいるんだ」とサンチェスさんはいう。

 アタカマの33人の鉱山労働者が再び一堂に会することはない。大半の仲間は無名の日々の暮らしに戻っている。

 一方、世界中を旅し、ハリウッドのスターたちと会う瞬間も楽しんだセプルベダさんは、それら全ての経験と交換してでも鉱山へ戻りたいという。「もう一度シフトに入って、同僚やシフトマネジャーと一緒に鉱山の入り口に立ちたい。それが夢なんだ」「鉱山へ戻って自分の経験をささげたい。採掘が好きだし、鉱山労働者という仕事が好きなんだ」 (c)AFP/Paulina ABRAMOVICH