【10月16日 AFP】チリ北部のサンホセ(San Jose)鉱山の落盤事故で、32人の仲間と2か月にわたり地下に閉じこめられたヨニ・バリオス(Yonni Barrios)さん(50)は、地上で辛い決断を迫られた。妻と愛人による、別々の「お帰りなさいパーティー」だ。

 妻のマルタ・サリナス(Marta Salinas)さん(56)は15日夜、コピアポ(Copiapo)の自宅で、近所の住人も招待してロースト肉のごちそうを準備していた。

 しかし、サリナスさん宅から1ブロックも離れていない別の家では、現在のガールフレンド、スサナ・バレンスエラ(Susana Valenzuela)さん(50)がやはり隣人らとロースト肉を焼いていた。

 パーティー開始前、バレンスエラさん宅にはチリ国旗がプリントされたバルーンや、手書きのメッセージボードが飾られた。

「あの男はわたしのもの(気をつけなさい)」「わたしのターザン、愛してるわ。ジェーンとのわが家へ、お帰りなさい」

 戸口では、おめかしをしたバレンスエラさんがAFP記者にドイツの新聞のコピーを見せた。「見て、わたしが世界中の新聞に載っちゃったわ!」

 事故発生後、2人は共にバリオスさんが愛しているのは自分だと主張していたが、最終的に、バリオスさん救出時に出迎えて抱擁を交わしたのは愛人のバレンスエラさんだった。

 しかし妻のサリナスさんは、地下に閉じこめられている間に夫から感謝の手紙を受け取ったという。そのうち1通は、「マルタ、応援してくれてありがとう。わたしが行き場を失ったとき、君はいつも温かく迎え入れてくれる。わたしは今ここに閉じこめられているけれど、君は地上で待っていてくれている」と記されていた。

 サリナスさんは、「彼は法的な離婚は望んでいなかった」と語った。

 事故発生から救出まで、サリナスさんはゆっくり考える時間を持つことができた。そして、よりは戻さないと決めたのだと言う。

 バリオスさんとサリナスさんは法的には結婚しているものの、ここ数年は別居していた。バレンスエラさんによると、彼女とバリオスさんは同居して2年になる。パートナーが1ブロック先の別の女性と婚姻関係にあることも気にしないという。

 バレンスエラさんは、「彼が結婚したくても、できないわ」と語る。なぜなら彼女自身も、別の男性との離婚を済ませていないからだ。チリの離婚プロセスは複雑で、かつ時間がかかる。

 サリナスさんは、夫が自分に手紙を送ることで、二兎(にと)を得ようとしていたとみる。ここで隣人までもが、「あいつは両方とっておきたかったのよ」と割り込んできた。

「後悔することはないわ。片方が、潔い敗者にならなくてはいけないの」と、世界中の好奇の目にさらされることに飽き飽きしたサリナスさんは語った。

 自宅のテレビからは、ライバルのバレンスエラさんのインタビューが飛び込んでくる。静かにそれを見ていたサリナスさんが隣人に「どう思う?」と聞くと、隣人は「気にしちゃ駄目よ。ただのショーなんだから」と答えた。

 結局この夜、バリオスさんが向かったのは妻の家ではなくバレンスエラさんの家だった。パーティーには十数人の友人と親族が集まり、お決まりの「チ、チ、チ!レ、レ、レ!(「チリ」の意)」のかけ声が上がった。

 見るからに疲れ切ったバリオスさんは、窓から顔を出して笑顔を見せ、自宅前に集まった人びとに向かってシャンパンのグラスをひょいと持ち上げた。(c)AFP/Maria Lorente


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