■9月11日米同時多発攻撃後と同じ状況?

 ニューヨークのアンドルー・クオモ(Andrew Cuomo)知事とビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長は、現在の状況について、2001年9月11日の米同時多発攻撃での世界貿易センタービル(World Trade Center)崩壊によりニューヨーク市が被った破滅的な被害とその後の復興にしばしばなぞらえている。

 だが、ブロードウェー(Broadway)のミュージカルのギタリストとして働くディロン・コンドー(Dillon Kondor)さんは「今回は大きく異なっているように思う」と指摘する。

 コンドーさんは、同時多発攻撃後にニューヨークがみせた「プライド」がきっかけで、ニューヨーク市に引っ越してきた。

 だが、街を輝かせていたレストラン、劇場、店などはなくなり、かつてエネルギーと熱気の源だった人混みが今や不安の種となっている。

 コンドーさんがこれを実感したのはあるうららかな春の日、セントラルパーク(Central Park)を妻と散歩していた時のことだった。あまりにも多くの人がマスクを着用していなかったのだ。家に歩いて帰る途中どちらからともなく「この街を出なくては」と口にしたという。

 2人は6月、ハドソンバレー(Hudson Valley)のタリータウン(Tarrytown)のアパートに引っ越した。

■若者が住めるようになる可能性

 ニューヨークでは今、あちこちで引っ越しトラックを目にする。

 不動産業者ミラー・サミュエル(Miller Samuel)氏によると、ロウアーマンハッタン(Lower Manhattan)では、賃貸アパートの5%以上が空き家だという。これは過去10年間、なかったことだ。

 モントクレアの不動産業者スタントン氏は、現在起こっていることに比べると、同時多発攻撃の時の不動産への影響は「一時的な急下落」にすぎなかったと話す。現在は、新型コロナウイルスの影響に加え、在宅勤務の増加という大きなトレンドが背景にあるという。

 ニューヨーク市から住民が大量に移住しているため、高止まりしていた不動産価格は落ち着くかもしれない。また、これによりこれまで家賃が高額なためニューヨーク市に住むことができなかった若い世代が引き寄せられる可能性もある。

 スタントン氏は「ニューヨーク市の住宅価格が下がれば、若い人が住む良い機会となるだろう」と語った。(c)AFP/Thomas URBAIN