■台湾の人々は偽情報への免疫力を劇的に高めてきている

 チームで取り組んできた最近の課題は、若年層の政治参画、偽情報の一掃、新型コロナウイルスの流行にテクノロジーで立ち向かうことだ。

 保守的な無政府主義者として、唐氏は自身を政府や市民のために働いているのではなく、その二つをつなぐ存在として見ている。

「私は社会運動と政府の間に位置するラグランジュ点のようなもの」と、宇宙空間で二つの大きな物体の重力を均等に支える3番目の小さな点を例に出して説明した。

 一般的な上意下達型の政府は抜本的に改革するべきだというのが唐氏の考えだ。

 今の世の中は不当行為を撮影した動画が拡散され、それがきっかけとなり、時に北アフリカ・中東での民主化運動「アラブの春(Arab Spring)」や、反人種差別運動「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」が起きる。「民主主義そのものが民主化されている」と唐氏。一般人も政策に直接寄与するべきで、特に自分のように正統な政治的背景を持たない人こそ関わるべきだと付け加えた。

 新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)期に台湾の民主制度は強化された一方で、中国のやり方は「より窮屈になった」と言う。

「パンデミックは、二つの異なる政府の在り方について増幅器の役割を果たしたと思う」

 中国政府は蔡氏を忌み嫌っている。台湾を含めた「一つの中国」という考えを拒否しているためだ。

 蔡氏の党は、この島を台湾という独自のアイデンティティーを持つ、事実上の独立国家と見なしている。結果として、台湾は長年、中国寄りの手の込んだ誤情報や偽情報の標的となってきた。

 しかし唐氏は、台湾の人々はこうした情報への免疫力を劇的に高めてきたと確信しているとして、情報の衛生管理に例えた。「手洗いなどの良い習慣を身に付けているなら、何かを共有する前にもう一度考えるという良い習慣も身に付く」