【7月16日 東方新報】中国の人気女優、王珞丹(Wang Luodan)のペットのアヒルの「吉吉(Ji Ji)」が、河南省(Henan)の農家の女性に連れ去られ食べられてしまった事件から、その女性の罪の重さをめぐってネットで議論が広がっている。

 中国のSNS微博(ウェイボー、Weibo)で4348万人のフォロワーを誇る女優の王珞丹のアヒルが、河南省息県(Xi)の路上で女性に連れ去られ、王さんは今月3日、微博SNSアカウントで「アヒルを返してほしい」と発信した。

 彼女がロケで長期出張中のことで、同僚の母親で、河南省息県の屋台経営者に、吉吉を預かってもらっていた時の事件だった。王さんが仕事で家を空けるときは、いつもこの屋台経営者にあずかってもらっていた。吉吉は、屋台の周りで散歩したり、昼寝したりして、経営者にもよくなついていた。だが、この日、経営者が目を離したすきに、通りすがりの女性に連れ去られたという。

 さらわれる瞬間は監視カメラ映像にも映っており、王さんはその映像をSNS上で公開して、「この女性を探してくれたら、同じ大きさの北京ダックの真空パックを十羽分プレゼントして謝意をしめしたい」「ペットは飼い主にとって、唯一無二のパートナー」と投稿し、吉吉の返還を呼び掛けた。しかしながら、地元警察はその女性の所在を突き止めたとき、吉吉はすでに食べられてしまったことを確認した。

 この吉吉は、コールダックと呼ばれるペット用に開発された高価なアヒル。ペットショップでは数千元から1万元(約15万円)以上もするそうだ。王さんの吉吉はファンの間では有名で、その影響でネットショップでは最近、コールダックに1万5000元(約23万円)の値段がついている。

 この女性はすでに身柄を拘束されているが、窃盗罪で起訴されるべきかどうか、という問題がネットで論争を引き起こしている。

 自分のものでない、アヒルを持ち帰って食べた行為自体は窃盗といえるが、中国の場合、窃盗罪を構成するには、盗まれたものの価値が客観的に1000元(約1万5300円)以上でないと、窃盗罪は成立しない。ペットショップの、コールダックの値段の相場が7000元(約10万6990円)だと仮定すると、窃盗罪としては3年以上の懲役が相当だという。

 だが、ネットの一般大衆の反応は、アヒルを持ち去っただけで懲役3年はひどい!というものだった。女性はそんな高価なものだとは認識しておらず、悪意は比較的小さく、窃盗に問うのは難しい、と法律の専門家たちも指摘する。

 これは刑法学上の「認識錯誤」、加害者側に「そんなつもりはなかった」というケースに当てはまりうる。中国刑法では、客観的な行為と加害者の主観的な意識の両方を問う「主観と客観の整合性」の原則を堅持している。 アヒルの窃盗は、加害者がそのアヒルの価値を知っていたかが、窃盗事件になるかどうかのレッドライン、ということだ。

 実は過去にも同様の議論が起きたことがあった。2003年8月、4人の出稼ぎ労働者が、北京農林科学院(Beijing Academy of Agriculture and Forestry Science)のブドウ園に侵入し、ブドウを食べた。実は、このブドウ、科学院が40万元(約610万円)を投資して10年かけて開発した希少な新品種。 窃盗額が40万元と計算すると、4人は10年以上の重刑ということになる。だが、 彼らはブドウがそれほど高価だとは知らなかった。

 結局、司法当局は被疑者たちが「研究用ブドウの価値を認識できてなかった」と判断し、一般的市価のぶどうで窃盗額を換算すると、窃盗罪構成額に至らなかったので、不起訴とした。今回の事件も、普通の家禽(かきん)のアヒルの価格で刑罰の重さをはかれば、窃盗罪構成額には至らず、不起訴となるかもしれない。

 だが、王さんの友人が、彼女の気持ちを代弁し、「吉吉は、彼女にnとって家族同然だった」といい、実は市場価格の1万元以上の重みが吉吉の命にはあった、という。

 家族同然のパートナーを食べられた女優の苦痛と、アヒルを持ち帰って食べただけなのに懲役3年の重刑に処されるかもしれない女性の苦悩、中国司法はどちらに寄り添う判断を下すのだろう。 (c)東方新報/AFPBB News