【7月5日 AFP】インド・ムンバイにあるアジア最大規模のスラム街ダラビ(Dharavi)では、新型コロナウイルスによる初の犠牲者が確認された際、対人距離の確保や接触者の追跡がほぼ不可能だとして、狭く密集した通りが墓場と化すのではないかと多くの人々が懸念した。

 だがそれから3か月を経て、ダラビには珍しく、希望の光が差し込んでいる。市当局者のキラン・ディガブカール(Kiran Dighavkar)氏によると、「災難を待ち構えるのではなく、ウイルスを追いかける」ことに焦点を当てた積極的な戦略が功を奏し、新規感染者が減少しているという。

 無秩序に広がるこのスラム街は、インド経済の中心都市ムンバイにおける厳しい所得格差を象徴する。推計100万人の住民たちは、工場で働いたり、裕福な市民の下でメイドや運転手として働いたりしながら辛うじて生計を立てている。

 十数人が一つの部屋で眠るのが当たり前で、数百人が同じ公衆トイレを使う現状の中、標準的な感染対策がほとんど役に立たないことに当局は早々に気付いた。

「対人距離の確保は実現不可能で、自宅隔離は選択肢になり得ない。しかも、大勢が同じトイレを使う現状では、接触者の追跡はとてつもなく大きな問題だった」と、ディガブカール氏はAFPの取材でそう振り返った。

 戸別訪問でスクリーニング検査を行うという当初の計画は、ムンバイの焼けつくような暑さと湿気の中、防護服を何枚も重ね着し、感染者を探して狭い路地を歩き回る医療関係者が息苦しさを訴えたことから取りやめになった。

 だが感染者が急速に増え、検査を受けた人が5万人に満たない現状を踏まえ、当局は迅速かつ独創的な対応をする必要に迫られた。

 彼らが編み出した方法は、その名も「ミッション・ダラビ」。医療関係者は毎日、スラム街の異なる場所に簡易検査施設を設置し、住民らがスクリーニング検査や、必要ならばウイルス検査を受けられるようにした。

 学校や結婚式場、スポーツ施設は隔離施設として代用され、無料の食事やビタミン剤が提供された他、「ラフターヨガ(笑いヨガ)」のクラスも開催された。

 12万5000人が暮らすウイルスのホットスポット(局地的流行地)では、ドローンも駆使して人々の移動を監視し警察に通報するなど、厳格な封鎖措置が取られた。その一方、住民らが空腹とならないよう、大勢のボランティアが食料を配給するなど、迅速な対応に当たった。

 また、ボリウッド(Bollywood)スターや経済界の大物らが医療装備の購入用に資金を提供し、建設作業員らはダラビ内の公園に病床数200の野外病院をあっという間に建設した。

 こうして6月下旬までに、スラム街の人口の半数超がスクリーニング検査を受け、約1万2000人がウイルス検査を受けた。

 ダラビでこれまでに報告された死者数はわずか82人で、4500人超を数えるムンバイ全体の死者数のほんの一部を占めるにすぎない。

 コロナ危機のピーク時に自身の小さな診療所で毎日約100人の患者を診察していたアブヘイ・タワレ(Abhay Taware)医師(44)は、「われわれは勝利を目の前にしている。私はとても誇りに思う」と話した。

 2児の父親であるタワレ氏はAFPに対し、4月に新型コロナウイルスに感染して自身も闘病生活を送らなければならなかったが、職場への復帰を「まったく疑っていなかった」と語った。(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY, Vishal MANVE