【7月3日 AFP】引っ越しはどれほどタイミングが良くても面倒なものだが、カナダ・ケベック(Quebec)州では同日に多くの賃貸契約が一斉終了するうえ、今年は新型コロナウイルス流行の影響でいっそう転居の困難さが増している。

 フランス語圏の同州では、毎年7月1日に大勢が一斉に引っ越しをする。モントリオール市内だけでも、公式統計で8万〜10万世帯が毎年この時期に転居している。

 この伝統の始まりは18世紀までさかのぼり、雪が完全に解けるまで小作人を借家から追い出すのを地主に禁じたことが背景にあるとされる。

「もう、不安で」と、マスク姿の引っ越し作業員に離れた場所から家具を運ぶ指示を出しながら、ファッションデザイナーのシェイラ・ダッサン(Sheila Dassin)さん(46)は語った。「他人が自分の物に触ることになるでしょう。家の外では危機が続いているから、知らない人たちがわが家の中に(ウイルスを)持ち込んでしまうかもと思うと怖い」

 ケベック州では多くの賃貸契約が6月30日に満了を迎える。7月1日が建国記念日「カナダ・デー(Canada Day)」で祝日なため、例年ならば少し余裕をもって引っ越しができるタイミングだ。

 だが、今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が収束しない中、公衆衛生上の危機によって賃貸物件不足が悪化しており、ホームレスになってしまうのではないかと心配する声も多い。「居住の権利」を守る人権団体「FRAPRU」によれば、転居先が見つからないとの相談電話の件数は昨年の98件から171件に激増した。

 当局は、感染拡大を防ぐため友人や近隣住民に引っ越しの手伝いを頼まず、予防措置を講じている業者を利用するよう推奨している。これも「余計な出費となり、家計の苦しい家庭に追い打ちとなっている」とFRAPRUは指摘する。

 引っ越し業者も、利用客の強いストレスや消毒に関する質問にさらされ、不安を感じている。

 ある業者では、トラックは毎晩消毒し、転居先の室内に作業員と同時に立ち入る顧客は1人に限定するなど、さまざまな安全対策を新たに講じた。だが経営者は、家具を移動する際に「2メートルの対人距離を確保することなど絶対に不可能」だと述べた。(c)AFP/Anne-Sophie THILL