【6月26日 東方新報】中国の李克強(Li Keqiang)首相が全国人民代表大会(全人代)で行った政府活動報告で、「露店商経済」を強く打ち出したことで、全国的に「露店商ブーム」が起きている。中国学者たちの推計によれば、この露店経済モデルによって少なくとも5000万人分の雇用が創出でき、米中貿易戦争、新型コロナウイルス感染症流行によって顕在化した経済、社会問題をかなり軽減できるという。

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 李克強氏は全人代の閉幕記者会見上で、「露店経済」を称賛し、その後の山東省(Shandong)煙台市(Yantai)の視察旅行のときに、再び露店経済、屋台経済が、中国の活力だと強調。

 こうした首相の政策方針について、東北財経大学(Dongbei University of Finance and Economics)中国戦略・政策研究センターの周天勇(Zhou Tianyong)主任は、露店経済や農貿市場と呼ばれる青空市場の発展と都市の現代化は矛盾しないと指摘。もし都市で露店経済、農貿市場が促進されれば、失業者の受け皿として非常に重要な役割を果たし、およそ5000万人の雇用問題が解決できるだろう、という。中国国内にはおよそ7.7億人の労働人口があり、15%にあたる1億人が非正規就業だ。

 多くの先進国では露店商が公道の一部を占拠することに非常に寛容で、これが非正規就業の重要な構成部分となっている、と周天勇主任は指摘する。先進国の非正規就業(就職場所が固定していない)の20%を露店商が占めているという。

 李克強氏の政策方針をうけて、内陸部の地方、例えば河南省(Henan)許昌市(Xuchang)、吉林省(Jilin)長春市(Changchun)、遼寧省(Liaoning)大連市(Dalian)、上海市などの地方政府が相次いで、露店商、屋台などの零細企業支援政策を打ち出している。

 またEコマース民営大手が積極的に支援。阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング、Alibaba Group Holding)、京東(JD.com)、微信(ウィーチャット、WeChat)などは、各地方の露店商らにつけで商品を卸すなどの支援を次々と打ち出した。京東創始者の劉強東(Richard Liu)氏、アリババ創始者馬雲(ジャック・マー、Jack Ma)氏らも、振り返れば露店商からスタートしたのだ。

 露店商ビジネス推進策は、意外な産業もけん引している。例えば自動車産業。

 露店ビジネス向けに販売された、五菱汽車(Wuling Motors Holdings)の電動小型移動販売用車「五菱栄光」(5.68万元、約85万円)には、一台購入につき3000元(約4万円)の補助金がでるとあって、売れ行きが好調。香港市場の五菱汽車株は6月4日、この一年で最高を記録した。

 五菱の公式アカウントは6月2日に、「五菱の側面開放式の移動販売用車は5300リットルの広さで、1キロ当たりの燃費は0.4元(約6円)。朝から晩まで、朝食から夜食まで、何でも販売できるし、農村地域から繁華街まで、どこでも商売圏になる」と、宣伝を打ち出した。その翌日には五菱「屋台用神車」とネットユーザーの間で話題となり、五菱汽車の株価はその日一時120%に高騰したのだった。

 この移動販売用車は5月に売り出されたばかりだが、5月だけで300台以上が売れ、6月は4日までに、すでに1000台の購入予約が入っている。ほかにも、屋台用車両を出す自動車企業はのきなみ好調だ。

 たかが露店商、屋台といっても、1日1000元(約1万円)稼げるケースもある。かつては、都市の景観、秩序を損なう無許可商売として城管(都市管理行政執法局)から目の敵にされていた露店商だが、今はポスト新型コロナ経済の希望として期待がたかまっている。(c)東方新報/AFPBB News