【6月3日 AFP】米ミネソタ州ミネアポリス(Minneapolis)で黒人男性のジョージ・フロイド(George Floyd)さんが警官に首を膝で押さえつけられて死亡した事件から1週間余り、全米各地で大規模な抗議デモが相次いでいる。デモでは大勢の人たちが狭いところに密集し、要求事項を叫び、催涙ガスを浴びて激しくせき込んでいる。

 専門家らは、これらのデモが新型コロナウイルスの感染拡大を再燃させる恐れを懸念している。一方でアフリカ系米国人にとっては人種問題化している警察の暴力自体が、こうした死や、心臓まひやがんなどストレスに起因する病気のリスクを高める深刻な公衆衛生危機であり、そのことが無視されていると指摘する臨床医や研究者もいる。

 バージニア大学病院(University of Virginia Hospital)の医師で自身も黒人のエボニー・ヒルトン(Ebony Hilton)氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と警察による暴力を「二つのパンデミック(世界的な大流行)」と呼び、その脅威が改めて示されたと語る。

 ヒルトン氏はAFPに対し、「(新型コロナウイルス患者が)急増しそうだ。ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)が守られず、多くの人がマスクを正しく着用していないからだ」と話した。

 警察は群衆を排除するために、強烈な灼熱(しゃくねつ)感を引き起こすペッパースプレーや催涙ガスなどを当たり前のように使っている。

 ヒルトン氏は「ペッパースプレーを浴びた結果生じる、せきやむせ返りも感染リスクを高める」 「新型ウイルスは目への飛沫(ひまつ)でも感染する恐れがあるが、多くの人はゴーグルを着用していない」と指摘した。

 米カリフォルニア大学リバーサイド校(University of California, Riverside)の疫学者ブランドン・ブラウン(Brandon Brown)氏は、新型コロナウイルスの感染リスクは屋外では下がるもののゼロにはならず、特に人々が警官隊とにらみ合って対人距離が確保されない場合はリスクがあると述べ、「COVID-19の予防だけではなく、国家の監視から逃れるためにもマスクの着用は重要だ」と語った。

 また、ニューヨークの救急医ロバート・グラッター(Robert Glatter)氏は、催涙ガスによって生じるエーロゾル(超微細な霧状の粒子)が、ウイルスの飛沫を群衆の奥深くまで運ぶ恐れもあると説明した。

 これらのことから公衆衛生の専門家らは、今後2週間ほどの感染状況の推移に警戒感を高めている。(c)AFP/Issam AHMED