【6月2日 AFP】米ミネソタ州で黒人男性が白人警官に拘束されて死亡した事件を発端とする抗議デモをめぐり、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は1日、急進左派の活動家ネットワーク「アンティファ(Antifa)」について「米国はテロリスト組織として指定する」とツイッター(Twitter)に投稿し、デモにおける暴力行為の激化の原因だとした。

 トランプ政権のロバート・オブライエン(Robert O'Brien)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やウィリアム・バー(William Barr)司法長官も、暴動を扇動している「過激派グループ」だとアンティファをやり玉に挙げている。テロ組織に指定されれば、アンティファは国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)やイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と同列に扱われることになる。

■アンティファとは何者か?

 アンティファという名称はアンチ・ファシズム(反ファシズム)を意味し、1930年代初頭にアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)率いるナチス・ドイツ(Nazi)の台頭に立ち向かおうとした社会主義者らのグループに由来する。

 米国の反ファシスト・グループは過去20年以上にわたり、さまざまな社会正義の問題について運動を展開してきた。今週、ニューヨーク・アンティファ(New York Antifa)は「われわれはファシズム、人種差別、性差別、同性愛者・トランスジェンダー嫌悪、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪、そして偏見のない世界を信じ、闘う」とツイートしている。

 ただ、アンティファの活動は基本的にネオナチや白人至上主義者グループへの対抗に的を絞っており、右翼の過激派を公の場から追放し、カウンターデモを組織するというのが戦術の大半だ。

 しかし、トランプ氏が勝利した2016年の大統領選で右派グループが活気づいたため、現在アンティファは右派との直接対峙(たいじ)や破壊的な抵抗運動に携わっている。

 2017年1月20日のトランプ大統領就任式の際には、黒い服とマスクを着用したアンティファをはじめとする大勢の集団が首都ワシントンで抗議を行い、窓を壊したり車を燃やしたりした。

 また、2017年8月にはバージニア州シャーロッツビル(Charlottesville)で白人至上主義者やネオナチのデモ隊と衝突し、乱闘となった。それ以降、両者はポートランド(Portland)やカリフォルニア州バークレー(Berkeley)など各地で衝突を繰り返している。

 しかし米議会調査局(Congressional Research Service)によると、アンティファは本部や全国的な組織を持たない「分散的な、独立した急進的志向を持つグループや個人の集まり」で、大半が非暴力的であるが「自分たちの信念を広めるためならば、一部のメンバーは罪を犯すこともいとわない」という。

■暴力をあおるのはアンティファ?

 トランプ氏やその側近は別として、その他の米政府当局者や地方当局によると、米全土の都市で起きている暴力や破壊にはアンティファだけでなく、右派と左派の複数のグループが関与しているという。

 米ダートマス大学(Dartmouth University)の歴史学者で、「Antifa: The Anti-Fascist Handbook(アンティファ:反ファシスト・ハンドブック)」の著者マーク・ブレイ(Mark Bray)氏は米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)への寄稿で、組織体系が緩いために人数を確認することは不可能だとしつつ、「基本的に自分たちだけで驚くほどの破壊行為を成し遂げたアナキストやアンティファのグループはない」と述べている。

■トランプ氏はアンティファをテロ指定できるのか?

 その可能性は低い。国内の暴力的な組織を、ISやアルカイダのような国際組織と同様にテロリスト指定することを認める法律は米国にはない。

 国際テロ組織指定は強力で、該当組織への支持を表明しただけで逮捕、投獄が可能だ。この法律が国内の組織にまで拡大して適用されていないのには、正当な理由がある。そうした法律があれば、指導者が政治的な対立勢力にそれを適用しようという誘惑に駆られる可能性があるからだ。

 バー司法長官はアンティファが暴動を扇動していると指摘しているが、捜査を米連邦捜査局(FBI)の合同テロ対策タスクフォース(Joint Terrorism Task Force)の手に預けるのには限界がある。バー氏は、暴動に参加するための州間の移動など、連邦法違反が焦点になると示唆している。

 ただ、アンティファのようなグループには国際的なネットワークがあり、米政府がそれを口実にテロ指定を適用しようとする可能性はある。(c)AFP