■パートナーのコントロール

 ロックダウン前の推計では、DV被害に遭った女性はロシア全体で1650万人近くに上っていた。そしてロックダウンが始まると、この流れがさらに悪化した。女性支援団体「ANNA」の創設者であるピスクラコワ・パーカー氏によると、同団体のホットラインに寄せられた緊急電話は、2月から4月にかけて約30%急増したという。ピスクラコワ・パーカー氏は、もしDVを厳しく取り締まる法律が整備されていたら、適切に対処できていたはずと指摘する。

 ピスクラコワ・パーカー氏をはじめとする運動家ら数人は4月、DV被害者を緊急に保護するよう政府に求めた。当局が十分な保護施設を用意し、女性に対する暴力について啓発活動を行う必要があるとの訴えだった。

 しかし、こうした訴えに政府が耳を貸すことはなかった。内務省は5月、DVが増加しているという証拠はなく、さらには4月の数値が昨年比で9%減少したと発表したのだ。

 NGO「キーテジ危機センター(Kitezh Crisis Centre)」のアリョーナ・サディコワ(Alyona Sadikova)所長は、外出制限令の発令以降、同センターでは400件以上の電話を受けたと話す。

 新型ウイルスが流行する以前は、女性たちが虐待者から離れ、仕事を見つけ、子どもを幼稚園に通わせることができていた。だが今では多くの女性が違う手段──じっと座り、黙って耐える──に甘んじているとサディコワ氏は指摘する。「国の経済は見通しが立たない。それで多くの人が我慢するようになっている」

 ピスクラコワ・パーカー氏も、多くの被害者がパートナーによって厳重にコントロールされているため、助けを求めることすらできない状態にあると話す。そして、「私たちが今見ているのは、ほんの始まりにすぎない」と述べ、事態がさらに悪化することも考えられるとして、当局による即座の対応を求めた。

 他方で経済危機により、女性だけでなく、その虐待加害者も職を失うケースが増えてきている。外出制限が緩和されたとしても、緊張状態がさらに悪化することも考えられるとピスクラコワ・パーカー氏は予想している。

「規制が解除されたら、その余波で家庭内暴力の波が押し寄せてくることが考えられる」

「この問題には今、できる限り集中することが非常に重要なのです」 (c)AFP/Anna SMOLCHENKO