【6月5日 AFP】新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)が始まってから約1か月が経過した4月下旬、ロシアの首都モスクワで暮らすイニタ・アフチャモバ(Ineta Akhtyamova)さん(50)は、夫からの暴力に耐えかねて家を出た。

 市内の小さなアパートで夫と暮らしていたアフチャモバさんは、新型ウイルスによる外出禁止令の影響を受け、歌手として活動することができなくなり収入も無くなっていた。そのような生活が続く中、怒りを爆発させた夫が食事を作っていたアフチャモバさんに殴りかかり、出て行けと大声で怒鳴りつけたのだ。

「家を出た。もう耐えられなかった」とアフチャモバさんはAFPに語った。

 これまで夫に殴られたときは友人たちの家に逃げ込んでいた。しかし、ロックダウン下ではどこにも行き場がなかった。友人たちはウイルス感染を恐れて、アフチャモバさんを家に入れたがらなかったのだ。モスクワ全体がロックダウンされていたため、女性のための保護施設2か所にも受け入れを断られたが、最終的にNGOの助けを借りて市内東部にある小さな二つ星ホテルに一時的に避難することができた。

 人権団体らによると、ロックダウンが敷かれるようになってから、世界ではドメスティック・バイオレンス(DV)の発生件数が急増しているという。社会から隔離されたストレスと経済的不安による恐怖が、健全な関係さえをもむしばんでいるというのだ。

■沈黙の苦難

 中でも、ロシアの状況は他よりもひどい。女性のための権利運動に携わるマリーナ・ピスクラコワ・パーカー(Marina Pisklakova-Parker)氏は「法律がないことが原因」と指摘する。

 ロシアでは2017年、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領がDVに対する罰則を軽減し、多くの虐待加害者が処罰を免れることができるようになった。

 こうした現状について人権擁護者たちは、接近禁止令のようなDVを取り締まる法律がないこと、全国的に保護施設が不足していること、そして助けを求める訴えに警察がなかなか対応しないといったことが、ロシアの女性を無防備な状態にさらしていると訴える。