【5月13日 AFP】アラブ系イスラエル人の医師キタム・フセイン(Khitam Hussein)さん(44)は2月以降、毎日夜明け前に起き、イスラエルにおける新型コロナウイルスとの闘いの最前線に駆け付けている。

 フセインさんは、前例のない医療危機に立ち向かう中で重要な役割を果たしており、イスラエルで疎外されることが多いアラブ系社会の有望な一員として注目集めている。

 ハイファ(Haifa)近郊にある同国北部最大のラムバム病院(Rambam Hospital)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応を主導するフセインさんは、ここ数か月にわたり1日12時間働いている。

 フセインさんはAFPに対し、「非常に困難な仕事だ。毎日が異なる」「私たちの生活は根底から覆された」と語った。

 イスラエルではこれまで、新型コロナウイルスの感染者は1万6000人以上、死者は260人近くに上っている。

 フセインさんは、新型コロナウイルスが世界的に流行する中、長らく消えることがない患者との個人的な思い出が数々生まれていると話す。

 重症化した高齢の夫婦が病院に来た時のことを思い出す。夫の病状が急激に悪化したため、医師らは夫婦が最後の瞬間を共に過ごすことを認めたのだった。「妻も重症ではあったが、夫と話すことを私たちは許可した。最後の別れを言えるように」とフセインさんは語った。夫はその直後に亡くなったという。

「人間としてつらいことだ。医療スタッフは全員、悲しみに包まれた」

■ユダヤ系とアラブ系の共生?

 アラブ系イスラエル人は、イスラエルがユダヤ人国家の建国を宣言した1948年以降も、自らの土地に残ったパレスチナ人の子孫に当たる。人口の約20%を占めており、医療従事者も多い。

 ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相率いる政府は2018年、イスラエルがユダヤ人の国であることを明記した法律を議会で可決した。アラブ系など少数派の住民は、自分たちがイスラエルに暮らす権利を否定しているとし、これに猛反発した。

 今回の新型コロナ危機で、最前線で医療従事者として働くアラブ系住民がイスラエル社会で果たす役割に注目が集まっており、この法律をめぐる議論が再燃している。

 イスラエルの著名な芸術家たちは、ラムバム病院がアラブ系とユダヤ系の共生の象徴となっているとして、オンライン上で募金活動を行っている。フセインさん自身も、これまでに何度か個人的に注目を集めてきた。

 イスラエル最大野党党首で、同法律に批判的な立場を取るヤイル・ラピド(Yair Lapid)氏は、ネタニヤフ氏が一貫して、アラブ系医療従事者の貢献を無視してきたと指摘している。

 最近のツイッター(Twitter)の投稿では、「もし…あなたが数週間も眠れていない、病院で働くアラブ系の医師か看護師ならば、この法律が改正されることはないということを知るべきだ」と主張している。(c)AFP/Majeda El-Batsh