【5月9日 AFP】防護服姿の医療従事者によって香港の自宅から連れ出されたキャサリン・コサシ(Catherine Kosasih)さん(33)は、生後4か月と1歳9か月の2人の娘にいつ再会できるのか、そもそも再会できるのかさえ分からなかった。 

 病院に入ったコサシさんには、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断が下された。隔離され、夫と娘たちは検疫下に置かれた。さらに悪いことに、下の娘は粉ミルクに対するアレルギーがあり、授乳する方法がなくなってしまった。

「突然、家を出ることになって、どれだけの間入院するのかも分からなかった。たくさんの心配事があったが、一番は母乳で育てている赤ちゃんのことだった。特に粉ミルクに対してひどい反応が起きて、夫がもう少しで救急車を呼ぶところだったので」

 ウイルス治療薬が母乳を通して赤ん坊に移行する恐れがあるとして、医師から搾った母乳を捨てるように言われたコサシさんは、ソーシャルメディア上で母乳育児を支援する団体「香港ブレストフィーディング(Hong Kong Breastfeeding)」の創設者ジェンマ・マクファーレン(Gemma MacFarlane)氏に連絡した。

 マクファーレン氏はネット上に、母乳の提供を求める投稿をした。

■あっという間に集まった2週間分の母乳

 するとわずか数時間で、数十人の母親らが支援を申し出た。そして1日もたたないうちに、15リットル以上の母乳の提供が確約された。コサシさんの赤ん坊に約2週間、授乳できる十分な量だ。

「涙があふれた。こんなに多くのお母さんたちが私の赤ちゃんのために母乳を提供してくれたなんて、今も信じられない」。発熱と倦怠(けんたい)感、筋肉の痛みに苦しみ、肺に白い影が出たコサシさんは語った。コサシさんは2週間入院した。

 これまでのところ、新型コロナウイルスが母乳の中から発見されたという報告はない。世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症にかかりながらも母乳を与えたい母親には、安全にできるよう支援すべきだとしている。(c)AFP/Liz THOMAS