【5月1日 CNS】機械化の波が押し寄せても、職人の手でしか生み出せないものがある──。地域に根差した達人は、受け継いできた歴史を未来へ伝承しようとしている。

 黄河(Yellow River)が通り抜ける中国西部の蘭州市(Lanzhou)。古来、黄河の流れは時に激しく時に穏やかで、川べりも絶えず変化していた。田畑をかんがいする水を手に入れるため、人々は水桶を肩に乗せて運ぶか、ロバに運ばせるぐらいしか手だてがなかった。

 その歴史を変えたのが、明の時代の蘭州人、段続(Duan Xu)さんだった。南方の水車を参考に「黄河水車」を開発した。水流の勢いで木製の巨大な車輪を回転させ、順繰りに水桶を満杯にさせる。水桶はゆっくり上がっていくと口が傾き、水槽に水を入れる。水槽は水路につながり、その水は田畑を潤していく。数千年にわたり干上がっていた土地が、黄河の水で生まれ変わっていった。

「ごうごうと音を立てる川の流れ。一帯を包む水煙。黄河は本当に雄大だ」。黄河水車の制作で国家級無形文化遺産伝承者に指定されている段怡村(Duan Yicun)さんは78歳。段続から20代目の子孫にあたる。

 ニレ、ヤナギ、エンジュ…。蘭州の荒れた土の中で成長するこれらの樹木は、段さんの腕を経て、蘭州にしかない水車に姿を変える。

「今の農業には昔ながらのかんがい用水は必要なくなったが、黄河水車は蘭州が誇る歴史的文化だからね」。段さんは祖父の教えを守り、さらに水車に適した樹木を常に研究し、改良を重ねてきた。いつも空が明るくなる前に段さんは黄河の川べりに立つ。

 黄河水車は精巧な設計に基づき、一本の釘も使わず造られている。それも達人の腕前があってこそ。木製の水車は黄河の激しい流れに耐え、寿命は40年にも達する。

 段さんが気がかりなのは、水車の機械化が近年進んでいることだ。「職人が手作りした水車の外見をコピーしただけにすぎない。3年もせずに骨組みがバラバラになる問題が起きる」

 段さんは自分の技術を広めたいと考え、十数人の弟子に匠の技を教えてきた。だが、真剣に学ぼうとする人は少ない。「若者の心は移ろいやすい。ライフスタイルが変わり、伝統技術は市場経済にも合わなくなっている」。段さんはそうつぶやき、ため息をつく。

 それでも、先祖代々から歴史を受け継いできた職人の思いは変わらない。「どんな形でも残していくこと。そうしてこそ伝統技術の背後にある文化を守ることができる」。一つの技術に内包されている文化を深く理解すること。それは、職人個人に限ったことでなく、社会全体が必要とすべき意識だ。

 段さんは今、あらゆる形で水車の技術と文化を残していこうと、新しい商品の開発に力を入れている。プレゼント用のミニチュアから室内観賞用、屋外の観光用、実際に川で使用するものなど、その数二十種類に上る。段さんが黄河水車の研究に没頭する日々は、これからも続く。(c)CNS/JCM/AFPBB News