【4月16日 東方新報】中国本土で新型コロナウイルスの脅威が去りつつある中、世界最大のカジノ都市・マカオ(Macau)は、今も大きな打撃を受けている。マカオ政府の歳入の80%はカジノからの税収だが、そのカジノの収入は激減したまま。当局は異例の「ばらまき」で市民生活を支えようとしている。

 マカオは東京都世田谷区の半分程度(面積約32平方キロ)の小さな街だが、観光客は2019年で3900万人を超える国際的な観光地だ。カジノ業界の2019年の売り上げは2925億パタカ(約3兆9400億円)。人口約60万人のうち4分の3ほどがカジノ業界に関連した仕事に就いている。

 マカオで最初に新型ウイルスの患者が確認されたのは1月22日。その後も患者が増えたため、2月5~19日の15日間、すべてのカジノ41か所を営業停止とし、併設のホテルや映画館、ネットカフェ、ナイトクラブなども休業した。この措置で新たな感染者はしばらく報告されず、2月20日からカジノは条件付きで営業を再開。患者も3月上旬には全員退院した。

 しかし、3月16日になって新たに感染者1人が確認された。当局は3月24日、中国本土や香港、台湾の住民のうち、14日以内に海外渡航歴のある人の入境を禁止した。

 1~3月のカジノ収入は、前年同期比60%減の304億8600万パタカ(約4100億円)。3月だけを見ると前年同月比79.7%減の52億5700万パタカ(約708億円)にまで落ち込んだ。今年の総収入は例年の半分以下の1300億パタカ(約1兆7500億円)にとどまるという推計も出てきた。

 そもそもマカオは昨年から「逆風」を受けていた。米中貿易摩擦による景気減速により、マカオ訪問者の9割を占める中国人観光客が伸び悩んだ。さらに昔からの「なじみ客」だった香港の人は、逃亡犯条令改正案から始まったデモのあおりで、客足が減っていた。そこに新型ウイルスという「暴風」がやってきた。中国本土でもまだ日常生活を取り戻しつつある段階で、「マカオへ行ってカジノで遊ぼう」という心理には至っていないのが実情だ。

 これに対し、マカオ政府は市民の生活を下支えしようと、大胆なばらまき策に打って出た。既に2月には第1弾として約270億パタカ(約3640億円)の対策を発表。例年は7月に市民に給付する現金1万パタカ(約13万5000円)を4月に前倒しし、3月から3か月間の電気・水道料金の全額補助、減税、中小企業支援などを打ち出した。

 さらに李偉農(Lei Wainong)経済財政長官は4月8日、第2弾として136億パタカ(約1830億円)規模の対策を発表した。まず、マカオ市民の就労者に1万5000パタカ(約20万円)を支給。高額所得者や公務員は除外し、就労人口の7割が対象になるという。また、企業には従業員数に応じて1万5000~20万パタカ(約20万~270万円)を支給。ただし、半年以内に会社の事情で社員を解雇した場合は減額する。

 さらに、市民に5000パタカ(約6万7000円)分の電子商品券を配布するなどとした。マカオの平均月収は2万パタカ(約27万円)程度で、こうした支援策で雇用を維持しながら、消費も促そうとしている。

 マカオ政府は新型ウイルス感染症が流行して以降、市民が1日1枚のマスクを確実に入手できる配給制度も継続している。長年の豊富なカジノ収入で多くの財源があるため、一連の対策が実行できているが、カジノ不況が続けば限界もある。新型ウイルスがいつ過ぎ去り、いつマカオに客が舞い戻ってくるのか。マカオ政府は、大金を張って見返りを祈るカジノ客のような心境でいるかもしれない。(c)東方新報/AFPBB News