【4月5日 AFP】北朝鮮で昨年、スパイ容疑で拘束された後、国外退去処分となったオーストラリア人留学生のアレック・シグリー(Alek Sigley)さん(30)が当時の様子を述懐したコラムが今月1日、英紙ガーディアン(Guardian)に掲載された。シグリーさんは拘束中、銃殺刑にすると脅されたこともあったという。

 首都平壌の金日成総合大学(Kim Il Sung University)で近代朝鮮文学を学んでいたシグリーさんは、昨年6月に行方不明となり、世界中に衝撃が広がった。

 朝鮮語が流ちょうなシグリーさんは、いくつかの出版社に記事を寄稿し、世界で最も謎めいた国での日常をつづった非政治的なコンテンツをソーシャルメディアに投稿していたが、ある日突然大学構内で拘束され、ナンバープレートを黒いプラスチック袋で覆ったメルセデス・ベンツで当局に連行されたという。

 その際、「狂ったような顔つきで、目が腫れて血走った」男から「くそ野郎」などと怒鳴りつけられ、「わが国にやって来てこんな罪を犯すとは。トランプ(米大統領)やポンペオ(米国務長官)が情けないお前なんかの尻拭いをしてくれるとでも思っているのか?」と罵声を浴びせられた。

 尋問された場所は、明かりがついたままで時計もない「外の世界と完全に遮断された部屋」で、シグリーさんは時間感覚を失ったという。「毎日、自分の『罪』を告白するよう強要され、それを紙に書き記すことで時間が過ぎた。時間とともに書く内容は空想の度合いを増していった」

 シグリーさんが容疑を否認すると「怒鳴りつけられ、『真摯(しんし)に』『反省』しなければ、銃殺刑にすると言われた」という。

 シグリーさんには複数の容疑がかけられていたが、そのうちの一つは、インスタグラム(Instagram)におもちゃの戦車の写真を投稿したことだった。この戦車には「朝鮮民族の永遠の敵、米国の帝国主義者らを根絶しよう」と書かれていた。この投稿について尋問の際、当局者からは軍事スパイ行為だと告げられた。

 オーストラリアは平壌に外交使節を派遣していないため、シグリーさんの拘束時、オーストラリア当局は、北朝鮮に大使館を置き他国との「仲介役」を長年務めてきたスウェーデンを頼った。

 スウェーデン当局は特使を派遣し、シグリーさんは拘束されてから9日後に釈放された。独裁国家の北朝鮮で拘束された他の外国人に比べれば、拘束期間ははるかに短い。北朝鮮当局は「人道的寛容さ」に基づき、シグリーさんを釈放したと述べた。

 シグリーさんは釈放される前、当局者に書き取らされた「謝罪文」を読み上げるよう強要され、その様子を録画された。

 シグリーさんは北朝鮮観光の企画を手掛けるなどこの国の事情に通じており、2018年には現地で日本人女性と結婚している。「北朝鮮は、世界で最も外国人を嫌悪する国の一つだ」「だがその外国人嫌悪は、国民ではなく国家がもたらしている」とシグリーさんは話している。(c)AFP