【3月17日 東方新報】中国出身の女優、劉亦菲(リウ・イーフェイ、Liu Yifei)が主役を務める米ディズニー(Disney)実写映画『ムーラン(Mulan)』が今月27日に米国で上映される。中国では「中国の伝説のヒロインを中国人が演じるハリウッド映画」の誕生を喜ぶ声が多い一方、「中国文化がハリウッド風に脚色されてしまうのでは」という不安も。さまざまな形で注目度は高かったが、新型コロナウイルスの流行により中国での上映は延期となり、市民は肩透かしを食っている。

 同作は、1998年公開のディズニーアニメの実写化。中国人なら誰もが知っている南北朝時代の叙情詩『木蘭辞』をベースとし、重病の父に代わって兵役に就く男装の少女・花木蘭(Hua Mulan)が北方の異民族と戦い、活躍する姿を描く。李連杰(ジェット・リー、Jet Li)や甄子丹(ドニー・イェン、Donnie Yen)、鞏俐(コン・リー、Gong Li)といった中華圏を代表する国際派スターも出演している。

 ハリウッドで活躍する中華スターといえば『SAYURI(Memoirs of a Geisha)』の主役を務めた章子怡(チャン・ツィイー、Zhang Ziyi)がいる。しかし『ムーラン』は中国が舞台で、制作費2億ドル(約213億円)も『SAYURI』の倍以上。子どもの頃に米国で暮らしたリウ・イーフェイは、現在は米国籍で、英語のセリフも流ちょうにこなした。ニキ・カーロ(Niki Caro)監督は「他の女優では考えられない、最適な人選だった」と絶賛している。中国のニュースサイトでは「映画がヒットすれば、ハリウッドで最も成功したチャイニーズ・スターとなる」と期待されていた。

 一方で、作品には不安もつきまとっている。昨年7月、90秒の実写版予告編が公開されると、ネットユーザーから「間違いだらけだ」との声があふれた。まず、花木蘭一家の住まいが福建省(Fujian)など中国南部で見られる円形の土楼の形をしていることに、「北方の遊牧民族と戦う花木蘭は中原エリア(中国北部)出身のはず」との指摘が出た。椅子が登場するのも「南北朝時代はまだ床に直接座るのが普通」とツッコミが入った。

 このため、1998年のアニメ作品にさかのぼり、「アニメの花木蘭は、細長い顔につり上がった目という『西洋人の目に映る典型的アジア人』の顔だった。中国の物語とはいえ、アメリカンテイストが入るのは仕方ない。実写版もあまり期待しない方がいい」という意見も出ている。

 さまざまな思いとともに上映が待ち望まれたが、そこに立ちはだかったのが新型ウイルス。中国では1月末から全国の映画館が休業に追い込まれ、『ムーラン』も上映延期となった。米国では予定通り今月27日に上映されるが、中国本土の人々は「収束を待つしかない」とため息をついている。

 実はリウ・イーウェイの出身地は、新型ウイルスの感染が始まった湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)。今月9日に米ロサンゼルスで行われたワールドプレミアの際、「武漢に住む祖母はとても元気ですが、感染については故郷を非常に心配しています」とインタビューで話していた。

 中国では、国を挙げての感染抑制・防止策により、最近は新たな感染者数が1日あたりで10人を下回るようになった。新型ウイルス騒動が収束したその時、愛と勇気のため戦う「花木蘭」の姿が武漢市をはじめ中国各地で見られるようになるだろう。(c)東方新報/AFPBB News