■道から外れると罰せられる社会

 シュムエルさんは少年時代から教え込まれた戒律に疑問を持ち始めた頃から、超正統派を信じなくなった。「今や自分にとって意味をなさない」。今では「カシュルート」と呼ばれるユダヤ教の食の戒律を破り、豚肉も食べている。

 バーに集まった知人らは内面では超正統派の教えを捨てたのかもしれないが、外見的には今も敬虔な教徒に見える。男性は巻き毛のひげをふさふさと生やし、女性は裾の長いドレスを着て、髪を隠すためのかつらをかぶっている。

 支援組織のハス氏いわく、超正統派の社会に残ろうとしながらも、内心そこから逃れたくてたまらない人々は「維持困難な状態」に陥る。「道から外れれば、非常に重い罰を受ける社会だ」

 シュムエルさんも「もし見つかれば、子どもも仕事も全てを失ってしまう」と話す。

■死の宣告

 エルサレム郊外の自宅で取材に応じたアビ・トフィリンクシ(Avi Tfilinksi)さん(43)は、超正統派ユダヤ教徒の組織ネトゥレイ・カルタ(Neturei Karta)を抜けて以来、6人の子どもと引き裂かれた生活を送っている。この厳格な一派は、真のユダヤ国家はメシア(救世主)の到来をもって建国されるべきだと信じており、イスラエルを異端とみなしている。

 トフィリンクシさんがラビ(ユダヤ教の宗教指導者)として送ってきた12年にわたる二重生活は、シャバト(安息日)に携帯電話のバイブレーションが鳴ったことで破綻し始めた。超正統派では安息日に電子機器を使うことは完全に禁止されており、兄弟たちはトフィリンクシさんがもっと多くのタブーを犯しているのではないかと疑ったのだ。

「父は家族全員を集めて喪の儀式を行い、私の死を宣言した」「誰からも何も盗んでいないし、誰かを傷つけてもいない。ただ別の人生を選んだだけだ。それなのにこんなふうに私を罰するというのか?」。トフィリンクシさんは感情を抑えられない様子で言った。

 家族から追放されて3年後、トフィリンクシさんはエルサレムの市場で菓子を買うわが子たちを見かけた。「子どもたちが通るはずだと思って、次の道で待っていた」「私の声だと分かって、子どもたちは腕に飛び込んで来て私にキスをした。5分ほど泣いていた。またいつか会えることを願っているよと、子どもたちに伝えた」

 トフィリンクシさんは今、イベント会社で働きながらコメディアンを目指して何とかやっている。(c)AFP/Alexandra Vardi