【3月13日 AFP】台湾の台北刑務所(Taipei Prison)。上部に脱走防止用の鉄条網が張られたフェンスの後ろでは、受刑者らが前かがみになってミシンを使った作業をしている。時間外まで働きながら製造しているのは、新型コロナウイルス感染予防のための大量のマスクだ。

 桃園(Taoyuan)市内にあるこの工場では通常、囚人服が作られているが、新型ウイルスの感染が台湾に広がってからはマスクの製造を手掛けるようになった。2月中旬以降、製造されたマスクは約5万2000枚に上る。

 自らグレーのマスクを着用して取材に応じたユ受刑者(50)は、作業中はいつも家族のことを気に掛けているという。

「面会に来た時、マスクを買うのがとても大変だと話していた。私は家族に『パパはここでマスクを作っているんだ。お前たちが手に入れ、使う機会があるかもしれない』と話した」。ユ受刑者はマスクを作るたびに、これで家族がいくらか安全に過ごせるかもしれないと感じるという。

 薬物と火器を所持した罪で懲役23年の刑を言い渡されたユ受刑者は、服役して10年になる。「この小さなマスクは社会に貢献する機会だけでなく、自尊心も与えてくれる」

 マスクは1枚25台湾ドル(約90円)前後で販売されている。受刑者らは手にしたわずかな賃金を、刑務所内での物品の購入に充てている。

■注文数増加で時間外まで

 台湾全土の刑務所では、布製マスクや保護マスクを製造し、施設のスタッフや一般市民に提供する新たな取り組みが行われている。

 台湾は今年に入って一時、医療用マスクの需要が急増してパニック買いが起こったが、政府が配給制度を導入したおかげで今は落ち着いた。

 台湾での新型コロナウイルス感染者数は48人にとどまっている。感染が確認された地域からの入境を流行初期に制限し、明確な医療ガイダンスを発表した政府の対応は、感染拡大への対処方法の模範例にもなった。

 この刑務作業の運営を支援している台北刑務所の職員イエン・チーホン(Yen Chih-hong)さんによると、注文数の増加に伴い、1日のマスク製造数が当初の450枚から約1000枚に増えたという。

「彼ら(受刑者ら)は注文に対応するため、とても意欲的に時間外まで働いている。休憩を取るよう促さなければならない時もあるほどだ」とチーホンさんは話した。(c)AFP/Sean Chang and Amber Wang