【4月19日 AFP】エジプト南部ナイル川(Nile River)沿いのヌビア(Nubia)の奥地。マムドゥフ・ハッサン(Mamdouh Hassan)さんの肩の上に乗るワニの赤ちゃんが、訪れた観光客らを驚かせる。ワニは少数民族ヌビア人の収入源だ。観光客は飼いならされたワニに会うために見学料を払う。

 しかし、ワニは観光収入を呼び寄せるだけではない。古代エジプト王(ファラオ)の時代にまでさかのぼるヌビアの民族文化において、重要な役割を果たしている。

 アスワン(Aswan)に近いヌビアの村、ガーブソヘイル(Gharb Soheil)。伝統的な青や白のドーム型の家の扉には、ワニのミイラが飾られている。ヌビアの信仰では、ワニは天恵のトーテム(ある集団と特別な結びつきを持つ自然物)でもある。

 エジプトではガマル・アブデル・ナセル(Gamal Abdel Nasse)大統領時代にアスワンハイダム(Aswan High Dam)が完成し、ヌビアの土地に貯水湖ナセル湖(Lake Nasser)ができた。1964年、ナセル湖への水の引き込みが始まり、44のヌビアの村が水没。約5万人が立ち退きを迫られ、ダムの北方、ナイル川西岸のコムオンボ(Kom Ombo)近郊やアスワンに移住を余儀なくされた。行き着いた先は農業のできる場所が限られた細長い土地だった。

 以来、ヌビアの人々は土地の返還を要求しつつ、伝統を現代化することで文化を維持してきた。ワニを飼うことは、収入を補い、文化遺産をアピールする手段となった。

 ファラオにとって、ワニの頭を持つ神ソベク(Sobek)はナイル川の象徴であり、川の氾濫からの保護を祈る対象だった。

 ヌビアの人々にとってワニがどれだけ重要か、カフェを営むアブドルハキム・アブドゥ(Abdel-Hakim Abdou)さん(37)は熱く語った。アブドゥさんは、ハッサンさんの飼育場を必見の観光名所として推している。「ヌビアの人々にとってナイル川は生命力の象徴だ……われわれはこの川に生息するすべてのものを、天使と考えている」 (c)AFP/Bassem Aboualabass