【3月11日 東方新報】「戦う外交官」「中国外務省の網紅(インターネットの有名人)」など、数々の異名を取る趙立堅(Zhao Lijian)副報道局長が2月下旬、中国外交部のスポークスマンに就任した。欧米諸国が国際社会の世論形成を主導する中、「インフルエンサー」の趙氏を起用することで、中国の発信力を強化しようとしている。

 47歳の趙氏は、1996年に外交部に入省。アジア局や在米大使館、在パキスタン大使館などに勤務し、中国の外交官としてはかなり早い時期の2010年にツイッター(Twitter)を始めている。フォロワーは24万人だ。

 米政府が中国企業「華為技術(ファーウェイ、Huawei)」バッシングを続けている最中には、小さく切り分けられたリンゴの写真をツイッターにアップし、「ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領がなぜ、中国の一企業を目の敵にするのか分かった。(花びらの形をした)ファーウェイのロゴを見るといい。アップル(リンゴ)がバラバラに切り刻まれている」と投稿。「トランプ氏の本音は米国企業の利権を守りたいだけだ」とユーモアを交えてツイートした。

 趙氏は、香港の抗議活動をめぐる欧米メディアの報道にも反論を繰り返してきた。中国軍特殊部隊「戦狼」の元隊員が海外で大活躍するという中国の大ヒット映画『戦狼』になぞらえ、「戦狼外交官」とも呼ばれている。

 2月24日に歴代31人目のスポークスマンとして、海外・国内の記者が一堂に集まる場でデビューした。冒頭で「記者との交流を強化し、中国の物語をしっかり語り、中国の声を伝えたい」とあいさつ。「中国の物語を語り、中国の声を伝える」は、習近平(Xi Jinping)国家主席が中国の発信力を高めようと繰り返している言葉だ。

 この日はさっそく、米紙「ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)」が新型コロナウイルスの流行をめぐり、「中国はまさにアジアの病人」と論評を掲載したことに言及。中国が欧米列強や日本の進出・侵略により、国力が衰退した19世紀後半から20世紀前半にかけて使われた蔑称「東亜病夫(東アジアの病人)」に由来するのは明らかで、趙氏は「悪意ある中傷に対し、中国は『沈黙する子羊』にはならない。人をののしることはしても、謝る勇気はないのか。従来の論調にこだわるのなら、しかるべき責任を負うべきだ」と批判した。

 一方で翌25日には、新型ウイルスの質問を受け、「『滴水之恩当以涌泉相報(一滴の水の恩を、わき出る泉をもって報いる)』は中華民族の伝統だ」と中国のことわざを引用。新型肺炎と闘う中国を支援してきた各国に謝意を表明し、世界で新型肺炎が広がる中、今後は中国政府が各国を支援していきたいと強調した。

 特に、感染拡大が深刻になってきた日本と韓国に関する質問では「中国は高い関心を示し、わが事のように受け止めている」と繰り返している。27日の会見では「中日韓は一衣帯水の隣国であり、感染症の前では運命共同体だ。日本と韓国が予防・抑制に努力する中、中国が欠席することはありえない」と語った。このコメントは中国のネット上で注目され、中国版ツイッター「微博(ウェイボー、Weibo)」キーワードランキングのトップ10に入った。

 米国ではトランプ大統領が連日、ツイッターに自分の主張を投稿し、中国批判も展開している。かといって指導者の威厳を重んじる中国で、習主席が個人的意見を同じようにつぶやくわけにもいかない。多くの議論を経て決定した政策を、公式メディアを通じて繰り返し伝える中国の政治文化にそぐわないし、国内ではネット規制の一環でツイッターの閲覧を事実上禁じている事情もある。

 そこで外交部の「出番」となる。英国BBC放送の集計によると、中国の外交官や大使館、領事館などのツイッターアカウントは55あり、そのうち32が昨年に登録された。中国外務省も昨年10月にアカウントを登録したばかりだ。急ごしらえで積極的な対外広報に力を入れる中、長年にわたり高い発信力を誇る趙氏を情報発信の要に据えたといえる。今後、「インフルエンサー・スポークスマン」が中国の主張を世界にどこまで浸透させることができるかが注目される。(c)東方新報/AFPBB News