■「ベネディクト16世の力は衰えている」

 ドイツ・バイエルン(Bavaria)州の地方テレビ局は今年1月のドキュメンタリー番組で、車いすに座り、か細い声で話す前教皇の姿を映し出した。

 自らに「名誉教皇」の称号を与えたベネディクト16世は、教皇当時の赤い靴を修道士のサンダルに履き替えてはいるが、バチカンの壁の内側では今も白いカソック(司祭平服)を着ている。

 ベネディクト16世と同じ僧院で寝起きしている秘書のゲンスヴァイン大司教は、ドキュメンタリーでこう述べている。「歩く姿を見れば、彼(ベネディクト16世)の力が衰えていることが分かる」

 そのゲンスヴァイン大司教は3年前、「教皇が2人いるのではなく、事実上の拡大教皇庁だと言える。1人は現役で、1人は瞑想(めいそう)的なメンバーだ」と説明していた。こうした物言いは、フランシスコ教皇の正統性を認めず、ベネディクト16世が記すものはすべて後継者批判だと解釈するバチカン内の非主流派である保守派をたきつけた。

 だが2月初め、バチカン内で教皇に次ぐ地位にある国務長官(首相)のピエトロ・パロリン(Pietro Parolin)枢機卿は、フランシスコ教皇こそがただ一人の教皇だと述べ、この問題の決着を図ろうとした。「2人の教皇による統治といった言い方は終わりにしよう。なぜならば、教皇はただ一人しかいないからだ。つまり、それは教皇としての権限を与えられているフランシスコ教皇だ」

 フランシスコ教皇自身、いかなる曖昧さも許そうとはしていない。2016年には10歳年上のベネディクト16世は「名誉教皇であり、第2の教皇ではない」と明言し、ベネディクト16世のことを「家にいる祖父」に例えた。(c)Catherine MARCIANO