【2月27日 AFP】7年前に退位したローマ・カトリック教会の前教皇ベネディクト16世(Benedict XVI、92)は、加齢によって体は衰えているものの知的には今も健在で、後継者の現教皇フランシスコ(Pope Francis)の陰に隠れていることはできないようだ。その結果、「2人の教皇」が対立するような状況となっている。

 2013年2月11日、当時85歳だったドイツ出身の知識人、ヨゼフ・ラッツィンガー(Joseph Ratzinger)枢機卿(ベネディクト16世の本名)はラテン語で、ローマ教皇を退位する意向を表明した。存命中のローマ教皇の退位は約700年ぶりで、カトリック教会の枢機卿らをがくぜんとさせた。

 だが、博識な神学者でもあるベネディクト16世は、教皇退位後も「名誉教皇」としてカトリック教会の主要な問題について執筆活動を続けており、摩擦が起きている。

 例えばカトリック教会内部では最近、既婚男性が司祭になることをめぐる議論が起きている。遠隔地での聖職者が不足している南米アマゾン(Amazon)地域の司祭らが昨年10月、先住民の既婚者の任命を例外的に認めるようフランシスコ教皇に提言。バチカン(ローマ教皇庁)の司教会議(シノドス)はこれを採択した。

 今年に入り、シノドスの結論を酷評し司祭の独身制を擁護する書籍が出版されたが、ギニア出身のカトリック保守派の急先鋒(せんぽう)ロバート・サラ(Robert Sarah)枢機卿とベネディクト16世の共著だった。

 仏日刊紙フィガロ(Le Figaro)が報じた同書の抜粋は衝撃的で、バチカン観測筋によると、フランシスコ教皇はこの出版に強くいら立っていたという。

 一方、ベネディクト16世は共著による出版を認めたことはないとし、個人秘書であるドイツ人のゲオルク・ゲンスヴァイン(Georg Gaenswein)大司教を通じて、同書の出版を差し止めようとした。だが、既婚司祭をめぐって現教皇が公式見解を発表する前に、前教皇が司祭独身制の重要性を説いたことによるダメージは既に広がっていた。

 ベネディクト16世は2019年4月にも、カトリック教会内で起きた児童性的虐待は1960年代の性革命と現代社会の神の不在に問題があると、怒りもあらわに非難する長文を発表したことがある。

 一方、フランシスコ教皇は、児童性的虐待の原因は教会自身の内部にあるとして「聖職権主義」を批判し、聖職者としての優越感が加害者の司祭らを信仰から遠ざけたと主張している。