【3月11日 AFP】米ミネソタ州の田舎町に住む19歳のヘイリー・アン・ラッカー(Haylee Ann Rucker)さんは、米国人の両親のもとに生まれた。だが、法的には米国人としては存在していない。

 旅券(パスポート)も運転免許証も保健証も、成人米国人として普通の生活を送るのに必要な書類は一切ない。なぜなら出生証明書がないからだ。出生証明書がなければ社会保障番号を取得できず、何も発行されない状況となっている。

 ラッカーさんは、米国の二つの州と連邦政府、そもそも出生証明書を出さなかった病院による不条理なたらい回しの犠牲者だ。

 AFPは1月中旬、ミネソタ州の人口約3700人の小さな町エベレス(Eveleth)でラッカーさんを取材した。ラッカーさんは町長の寝たきりの妻を在宅で介護する仕事をしていたが、もちろん違法だ。町長はラッカーさんの状況を「最高にばかげた話だ」と指摘する。

 ラッカーさんはフラストレーションがたまった様子で「何もできない。すべてが行き詰まりだ」と話す。

 米国は出生地主義をとっており、米国で生まれれば誰でも市民権を得ることができるのになぜ、ラッカーさんが生まれた病院は出生証明書を発行しなかったのだろうか。

■すべての始まりは病院

 2000年12月の木曜の夜、ロサンゼルス郊外の病院ですべてが始まった。

 臨月だったラッカーさんの母親エイプリル・ブース(April Booth)さんは、病院に向かった。だが、看護師はブースさんを追い返し、陣痛の間隔がもっと短くなったら戻ってくるように言った。

 ブースさんは戻れなかった。赤ん坊の父親の助けを借りて、家で出産し、その後、救急車で病院に行った。だが、父親はおそらく養育費の支払いを避けるため、書類に署名しなかった。

 出産に正式に立ち会ったと認められる人がいなくなったため、病院は出生証明書の発行手続きを取らなかった。