【2月10日 AFP】エドゥアール・ルイ(Edouard Louis)氏(27)はここ1週間以上、フランス・パリの舞台で400人以上の観客を前に、自分の体験したレイプが再現されるのを見ている。

 ルイ氏は、2014年に発表した私小説「エディに別れを告げて(The End of Eddy)」が高い評価を得ているフランスの若手作家で、同性愛者である自らの人生を、芸術を通じて掘り下げることで知られている。だがそれでも2016年の著書「History of Violence(暴力の歴史)」を原作とするこの劇は、見る者に耐え難い思いをさせる作品だ。

 フランス北部の貧しい家庭に生まれ育った同性愛者の物語である「エディに別れを告げて」は、世界の人々の琴線に触れた。ルイ氏はこの中で、やがて極右ポピュリズムへと変貌する新自由主義的経済によって荒廃した共同体における差別、貧困、絶望に対し、残忍なまでの正直さをもって対峙(たいじ)する様子を描いた。

 「暴力の歴史」は、クリスマスイブに路上で出会った男によって、パリのアパートの一室でレイプされ、殺されそうになった出来事を同じく焼けつくような視点で描いている。

 だがルイ氏は、若いアルジェリア人の男が銃を取り出し、自分を絞め殺そうとした時に起こった暴力を表現することが重要だと主張する。

 ルイ氏は演劇「暴力の歴史」のパリ上演に合わせAFPの取材に応じ、「自分の選択ではなかったことを背負って生きていくのは容易ではない」と語った。「これらの苦しい体験を自分のものとして感じられるのが劇なのかもしれない」

 世界中で翻訳されベストセラーとなった「暴力の歴史」が、舞台化されるのはこれが初めてではない。だが、ルイ氏が直接、制作に関わったのは今回が初めてだ。