【2月9日 CNS】この数日、新型コロナウイルスの流行の中心地である中国・湖北省(Hubei)に行き、感染者と濃厚な接触があった人が、発熱やせきなどの症状があるにもかかわらず事実を隠し、感染防止に協力しなかったとして公安当局に逮捕されたというニュースが各地から伝わってきている。

【特集】収束の兆し見えず、新型肺炎が流行する中国の今

■隠して他人を感染させると罪に

 広東省(Guangdong)汕頭市(Shantou)の警察によると、湖北省の若い夫婦が1月23日、湖北から汽車に乗って汕頭市で働く父親を訪ね、滞在中に発熱やせきなどの症状が出た。父親と周りの人は症状があることを知りながら、地元政府に報告をしなかった。

 夫婦は29日、共に隔離されて医学的観察を受け始め、31日には妻が感染したと診断された。濃厚接触があった人も隔離され、医学的観察の対象となった。汕頭警察は今月2日、夫婦を含む4人を「公共安全危害罪」違反の疑いで逮捕した。

 江蘇省(Jiangsu)徐州市(Xuzhou)の警察では、住民の男が新型コロナウイルスの感染防止に関する要求に従わなかったとして「公共安全に危害を与えた」として逮捕され、医療機関で隔離治療を受けている。

 中国の感染症予防と治療に関する法律「伝染病防治法」には、中国国内の全ての企業と個人は、保健所や医療機関による感染症の調査、検査、隔離治療などの予防抑制の措置を受け入れ、事実通り情報提供をする義務があると定めている。

 また、同法に違反し、感染拡大・流行し他人の健康と財産に損害を与えた場合、民事責任を負うと定めている。情報を隠すことにより他人が感染した場合、損害賠償責任を負うとしている。

■何度も修正されてきた法律

 公開資料によると、中国の「伝染病防治法」は1989年2月に議会承認され、2004年12月に施行された。現行法は2013年6月に改正されている。中国医師協会の鄧利強(Deng Liqiang)主任によると、同法は、感染症の予防と治療に関する基本法であり、この法律の下で、中国の感染症の発生と致死率は顕著な改善がなされてきたという。

 2003年に突然来襲した重症急性呼吸器症候群(SARS)によって、中国の感染症対策の弱点が明らかになった。改正前の同法は原則的なことしか定めておらず、具体性に欠けることなどが分かり、多くの改正がされた。

■暴力を避け、国民の権利を守る

 留意すべきは、新型コロナウイルスの感染が広がる中で、対策として国民を隔離する法的根拠は何かという問題だ。

 鄧主任は「本来、医療機関には、患者を隔離して強制的に治療を行う権利はない。問題は、患者の個人的権利と公共の利益が衝突する時に、どちらを取るかだ。この場合、公共の利益を守るために感染者を隔離し、強制的に治療を行うことは必要だ。ただ、越えてはならない限界はあり、決して暴力的に行ってはならない。さもなければ、国民の権利は守られない。今回の感染対策の中で、随意に隔離の対象範囲を広げたことは決して適切ではない」と語る。

 さらに「病人の隔離は公共の利益に基づく配慮であり法的根拠はある。しかし、病人と濃密な接触があった人も強制的に隔離しようとすると、法的根拠は不足している」と鄧主任は言う。「現在、この種の人に対しては医学的観察措置を取り、公共の安全に配慮してもらい、自らの意思で特定の期間と場所で自らを隔離してもらうしかない」 (c)CNS/JCM/AFPBB News