【2月6日 AFP】米上院で2週間にわたって行われたドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の弾劾裁判は5日、無罪評決で幕を閉じたが、この「弾劾劇場」は米国民や連邦議会を分裂させ、トランプ氏の共和党支配を強化する結果となった。一方、首席検察官役を務めた民主党のアダム・シフ(Adam Schiff)下院議員はその雄弁ぶりなど、有能さが注目を集めた。

■2つのアメリカ

 弾劾裁判をめぐっては、連邦議会における民主党と共和党の深い亀裂があらわになっただけでなく、富豪でリアリティー番組の司会者だった「横紙破り」な大統領の下で、米国民一般の間にも溝が広がっていることが浮き彫りになった。

 複数の世論調査で米国民の約半数がトランプ氏の罷免か辞任を望んでいるとの結果が出たが、支持政党別で見ると、トランプ氏の失職を求める民主党支持者は85%に上った一方、共和党支持者は10%止まりだった。

■共和党の団結

 トランプ氏が2016年に共和党の大統領候補に指名されたとき、党内には公然とした反対の声があった。今やトランプ氏は共和党を完全に支配し、絶対的な忠誠を要求している。ツイッター(Twitter)を好んで利用し、熱狂的な支持者には惜しみない称賛で応える反面、まれに異議を唱える声があっても黙殺するのが、トランプ氏のスタイルだ。

 弾劾裁判の投票では、有罪票を投じた共和党員は重鎮のミット・ロムニー(Mitt Romney)上院議員(ユタ州選出)のみだった。同氏は、トランプ氏の振る舞いは「国民の信頼を明確に裏切った」と批判した。

■損なわれた議会制度

 弾劾裁判は、民主党と共和党の根深い対立が連邦議会の機能不全を招いている事実もえぐり出した。

 民主党が2019年に下院で過半数を奪還して以来、下院を通過した数百もの法案が、共和党が過半数を維持する上院で棚上げされている。1月の下院での弾劾手続きでは、両党が互いに譲歩を視野に入れず、状況の悪化を招いた。

 こうした険悪な雰囲気が、公正な弾劾裁判の実施を不可能にしたと共和党のリサ・マカウスキ(Lisa Murkowski)上院議員は指摘する。同氏は、トランプ氏の振る舞いは「恥ずべきで間違っている」と述べながらも、弾劾裁判では無罪票を投じた。

■雄弁家シフ氏に高い評価

 首席検察官役としてスキャンダルの詳細を隅々まで手際よく、ときにやや誇張しながら説明するシフ氏の姿は、何時間にもわたって議員らを魅了した。中でも最終弁論での気持ちのあふれる語り口は話題をさらった。

 弾劾裁判の一部を傍聴した女優アリッサ・ミラノ(Alyssa Milano)さんは、シフ氏のパフォーマンスを高く評価。「特に俳優の観点から、シフ氏は本当に面白かった」と称賛した。

「弾劾裁判の他の関係者との違いは一目瞭然。話の筋立てと時系列の説明は、水を得た魚のようで、まるでブロードウェー(Broadway)で一人芝居を見ているようだった」

 トランプ氏の忠実な擁護者である共和党のリンゼー・グラム(Lindsey Graham)上院議員でさえ、シフ氏の雄弁さをたたえ、「良い仕事」をしたと語っている。(c)AFP/Charlotte PLANTIVE