■日本にはビジネスチャンス?

 一方、中国では60歳で完全リタイアする人が非常に多い。政府機関や国有企業、大学などに所属した人々は定年後も年金以外の各種手当が出る。大多数の庶民はそうした恩恵はないが、「頤養天年(晩年を静かに過ごし、天寿を全うする)」という伝統的価値観から、子どもたちの支援を受けつつ、身の丈に合った生活でリタイア後の生活を楽しもうとしている。日本に観光で訪れた高齢の中国人から、「日本ではタクシー運転手や工事現場のガードマンなど、高齢で働いている人が多い。一生働き続けないといけないとは、日本も決して豊かではないのだ。子どもたちも親不孝なものだ」という感想を聞くこともしばしばだ。

 しかし、少子高齢化が拍車を掛ければ、中国で定年年齢の見直しが進むことは確実だ。そもそも現在の法定退職年齢は、国民の平均寿命が50歳に満たなかった1950年代に定められたもの。中国社会科学院はこれまでにも、男女とも定年を65歳へ段階的に引き上げる案を提起している。「このままでは年金が破綻する」と提言した鄭主任も「定年の延長や、保険料を多く納めれば支給額も増えるインセンティブ制度の導入が必要」と指摘している。日本でまさに議論されている問題と同じだ。

 中国人の人生観を変えることにつながるだけに中国政府も及び腰な面もあるが、いずれ定年延長に踏み切ることになるだろう。それが実行されれば、急激な少子高齢化の中でも中国が経済成長を維持する「伸びしろ」を確保することができる。

 中国の少子高齢化が進む中、日本はそれにどのように向き合うか。中国では現在、急激に老人ホームなどの高齢者向け施設の建設が進んでいる。中国では要介護者が4000万人近く、認知症の人も1000万人近くに達している。高齢者向け施設は全国で約3万か所あるが、富裕層向けが大半だ。高齢者の介護は「家政婦の仕事」という印象が強く、専門知識を持ったスタッフは少ない。すでに日本の国際協力機構(JICA)や福祉系大学が中国の高齢者向け施設にノウハウを提供しており、日本の専門機関で学んだ中国人の介護スタッフがこうした施設の主力となっている。

 今は「日中友好」の観点からのつながりがメインだが、将来的に増えるであろう一般市民向けの高齢者施設の運営に日本企業が積極的に関与していけば、非常に大きなビジネスとなる。さらにそうした分野にとどまらず、「定年後も働きながら人生を楽しむ」という日本型モデルを提示し、それに応じた商品やサービスを提供できれば、その市場はとてつもなく大きい。

 少子高齢化による中国の不安を日本が支え、日本にメリットをもたらす「ウィンウィン」の関係が築けるかが問われている。(c)東方新報/AFPBB News