■ワニ崇拝文化

 東ティモールではワニが崇拝されており、襲撃の増加はオーストラリアやその他の場所から餌を探し求めて泳いで来る外来種のワニが原因だと考える人も多い。

 オーストラリアのワニは保護努力によって個体数が増加した。だがその結果、食料の獲得競争が厳しくなり、一部のワニが生息地から遠く離れたところまで行くことを余儀なくされている可能性があると、バンクス氏は指摘する。

 バンクス氏と豪北部特別地域(Northern Territory)政府所属の野生生物科学者、福田雄介(Yusuke Fukuda)氏は、DNA検査によってワニ襲撃の急増をめぐる謎が解明されることを期待している。

 ワニは成長すると全長6メートル、体重1000キロほどになるが、500キロメートルに及ぶオーストラリアからティモール海(Timor Sea)横断の旅は可能だという。また、パプアニューギニアやインドネシア、マレーシアから泳いでくる可能性もある。

 バンクス氏と福田氏は東ティモール当局の支援を得て実施した2週間の調査遠征で、ワニ18頭からDNAサンプルを採取した。

 東ティモールのサンプルは、オーストラリアのDNAサンプルのデータベースと照合し、遺伝子が一致するかを確認した。

 初回の検査では、外来種のワニが現地の海域に存在することを示す材料は見つからなかった。

 だが、より明確に状況を把握し、外来種ワニによる襲撃の可能性を排除するには、さらに広範囲にわたる検査を重ねる必要があると、バンクス氏は注意を促している。「外来種ワニ襲撃の仮説は、仮説のまま残っている。この仮説が誤りであることを証明する材料はまだ得られていない」

 在来種のワニを批判することを嫌がる東ティモール人は多い。現地のテトゥン語でおじいさんを意味する「アボ(abo)」と呼ばれるワニは、至る所にまつられている。

 このようなワニ崇拝を背景に、東ティモールではワニ襲撃が過少報告されている可能性もある。このため、動物と人間の衝突を回避するための保護の取り組みと計画を複雑化させる必要があるかもしれない。(c)AFP/Hortencio Sanchez