■政府の最適化政策

 一方、医師らは公的資金不足を埋めるため民間資金を集めようとしただけだとし、横領疑惑を否定している。同病院に20年間務め、昨年11月に退職した外科医のイゴール・ドルゴポロフ(Igor Dolgopolov)氏は「年間50~60件の移植手術が必要だが、公的資金では約30件しかできなかった。残りについては諦めるか、別の資金源を見つけなければならなかった」と語った。

 患者の親も、医師らは公的医療制度の犠牲者だと指摘している。

 ブロヒンの患者の親が最も懸念したのは、治療方針が一部変更になったことだ。

 外国製の医薬品は、同じ効果がある国産のものに置き換えられた。国産の方が安価なことが理由の一つだが、政府が2015年以降、国内の製薬業界保護の一環として国産医薬品の使用を求めていることも理由の一つとして挙げられる。患者の親約30人は、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領にこの方針の撤回を求め陳情書を提出したが、「何も返事はない」という。

 ロシア政府は、1990年代の経済的混乱の影響を受けた旧ソ連時代から続く、非効率な医療制度の全面的見直しが必要だと強調している。予算割り当ての効率化を目指し約20年前に導入されたいわゆる最適化政策は、小規模な地方の病院を閉鎖に追い込み、医師らは主要都市の大規模多機能型病院に集中した。

 公式の統計によると、国内の病院数は2000年の1万700軒から2018年には4390軒に、1万人当たりの病床数は115床から71床に減少している。さらに経済協力開発機構(OECD)によると、ロシアの昨年の国内総生産(GDP)に占める医療費の割合は3.7%で、フランスやドイツの9.5%を大幅に下回っている。

 プーチン大統領は、こうした問題、特に施設、設備、人材不足について認識しており、今後3年で1500億ルーブル(約2220億円)の追加予算を投じると表明している。(c)AFP/Victoria LOGUINOVA-YAKOVLEVA