■「耐えがたい苦痛」

 スイスの法律では一般的に、本人が自らの意思で一貫して死を望む意向を明確にし、本人自らが致死行為をする場合に限り安楽死を認めている。つまり、例えば医師の手で患者に致死薬を注射することはできない。

 また安楽死支援団体にはそれぞれ独自の条件や手続きがあり、法的要件以上に細かく定められている。

 数か月以内にこの件に関する明確な立場を示さなければならないスイス当局は、フォクト受刑者の要請にどう対応すべきかについて、公益財団「スイス拘置・保護観察専門機構(Swiss Centre of Expertise in Prison and Probation)」に助言を求めた。

 これに対し同団体の専門家らは昨年10月、安楽死の権利は一定の条件下で受刑者にも認められるべきであり、精神疾患のある場合には2人の専門家の意見が必要だと回答した。

 同財団の報告書の主執筆者であるバルバラ・ローナー(Barbara Rohner)氏はAFPに対し、判断力のある受刑者であれば「身体的あるいは精神的疾患により耐えがたい苦痛が生じている」場合、基本的には安楽死の権利があると語った。

 フォクト受刑者は安楽死を希望していることについて、生活の質が「耐えがたいほど」悪化しており、またオーストリアで暮らす重い病の母親とももう会えないことなどを理由に挙げている。またドイツ語紙ブリック(Blick)に対し、8月13日に迎える自身の70歳の誕生日に命を絶ちたいとも語っている。

■同様の請求が増加する可能性も

 フォクト受刑者の例は特殊かもしれないが、同様の状況が増える可能性もあるとローナー氏は指摘する。「受刑者らの高齢化に伴い、高齢かつ病気の受刑者が刑務所内で増加するだろう」からだ。

 スイス国立科学財団(Swiss National Science Foundation)によると、2005~2016年の間に50歳超の受刑者の数は倍増し、600人に上っているという。(c)AFP/Agnes PEDRERO