【1月2日 AFP】インドのデリーで法律を学ぶトランスジェンダー(性別越境者)の女性、ライ(Ray)さん(24)は今、これまで強いられてきた性自認をめぐる多くの闘いに加え、新たな脅威にさらされている。ヒンズー至上主義・民族主義を掲げるナレンドラ・モディ(Narendra Modi)政権の新法と政策により、国籍を失う恐れがあるのだ。

 インドでは現在、不法移民対策を名目に制定された新法と全国規模の国民登録簿(NRC)作成に対する抗議が広がっている。公的な書類で男性とされているライさんも、トランスジェンダーの人々が国籍を失うことになると懸念し、新法と登録簿に反対している。

 ライさんが感じる恐怖には根拠がある。昨年8月に発表された北東部アッサム(Assam)州の国民登録簿からトランスジェンダー約2000人が除外され、将来の不安に見舞われていることだ。9月には、この措置をめぐり最高裁判所に申し立てが行われている。

 インドでは2014年、トランスジェンダーを「第3の性」と認める画期的な最高裁判決が下されたが、トランスジェンダーの人々はしばしば社会の辺縁に追いやられ、売春や物乞い、単純労働で生計を立てざるを得ないことが多い。

 トランスジェンダーの人々は自身の家族による差別をはじめ、保守的なインド社会でただでさえ厳しい差別に遭ってきたが、現在は新法によって新たな危険にさらされると感じている。

 ライさんはAFPに対し、「私たちの中には、家を追い出されたり、虐待を受けて家から逃げ出したりして、身元を証明する書類がない人が多い。トランスジェンダーの人たちにどうやって市民権を証明しろというのか」と訴えた。

 モディ政権は昨年の選挙で国民登録簿の作成を公約に掲げており、これが実行された場合、ライさんたちは家族の元に書類を取りに戻らざるを得ない。しかしライさんは「大半の場合、トランスジェンダーのコミュニティーや個人にとって、家族は最初に虐待を受けた場所だ」と指摘する。

 トランスジェンダーのメーキャップアーティスト、トゥルシ・チャンドラ(Tulsi Chandra)さん(29)も、地方の実家へ書類を取りに戻ることを恐れている。チャンドラさんは「私が家を出てデリーに来たのは、家族から私が恥だというような目で見られたからだ」と語り、今は家族と全く連絡を取っていないと明かした。

 さらにチャンドラさんは、トランスジェンダー女性の友人が書類を取りに実家に帰ったところ、「男性のふりをして女性と結婚するよう強いられた」と語った。

 インドでトランスジェンダーの人々は「ヒジュラ(hijra)」と呼ばれる。人数に関する公式統計は存在しないが、推計では数百万人とされている。

 トランスジェンダーのLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)権利活動家、リトゥパルナ・ボラ(Rituparna Borah)さんは「トランスジェンダーの人々にとっては、出生時に決められた書類上の性別と名前を変更することすら困難だ」と指摘する。

 ボラさんはAFPに対し、保健・医療や生活、結婚に関する基本的な権利さえ認められていないのに、「この国の国民であることを改めて証明しなければならない今、そうした権利をどうやって主張すればいいのか」と訴えた。(c)AFP/Archana THIYAGARAJAN