【12月31日 東方新報】「中国がデジタル人民元を導入する」「年内にも発行か」。そんな話題がいま、世界を駆け巡っている。日本でもNHKや日本経済新聞社(Nikkei)のほか、経済メディアが連日のように報道している。過熱報道を打ち消すように、中国人民銀行(People's Bank of China、中国の中央銀行)は「デジタル通貨を研究しているが、まだ発行段階ではない」と異例の発表をした。それでも、導入の時期は近いという見方が主流だ。デジタル人民元が誕生すれば世界経済に大きな影響を与えるだけでなく、国際政治にも大きな影響を及ぼすといわれる。デジタル人民元とは一体何なのか。そしてその狙いは。

 デジタル人民元は、まず人民銀行が一般銀行との間で同額の準備金と交換して発行し、企業や個人が銀行との間で現金や預金と引き換えに入手する仕組みと考えられている。実際のカネと交換するので、ビットコインのように価格が変動することはない。

 日本では最近になって「○○ペイ」といったキャッシュレス支払いが広がり始めたが、中国では数年前から阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング、Alibaba Group Holding)の支付宝(アリペイ、Alipay)や騰訊(テンセント、Tencent)の「微信支付(ウィーチャットペイ、WeChat Pay)を使い、日常生活がほぼスマホ払いで済むキャッシュレス社会となっている。「財布を持たない暮らし」が当たり前になっており、「いまさらデジタル通貨が必要なのか」という声もある。

 使い勝手の面ではこれまでの電子マネーと同じ仕組みと考えられるが、電子マネーは中国の銀行に口座がないと使えない。デジタル人民元は中国政府が発行する通貨そのものなので、口座がなくとも外国人を含め誰でも容易に使える。

 デジタル人民元を導入する理由はそれだけではない。中国政府の狙いは、まずは「人民元の国際化」だ。現在、世界で多く使われている通貨は米ドルで、国際決済に占める割合は約40%に上る。人民元はわずか2%にすぎない。デジタル人民元が中国と海外企業との貿易の決済や国境をまたいだ送金、中国を訪れる外国人らに使われ、さらに中国が進めるシルクロード経済圏「一帯一路(Belt and Road)」の関係諸国の間で使われるようになれば、デジタル人民元が世界に流通することになる。

 中国国内で言えば、脱税や金融犯罪などの対策に有効となる。金のやりとりが記録されるデジタル通貨は追跡が可能で、マネーロンダリング(資金洗浄)や詐欺などの抑止となる。アリペイなどを通じて銀行以外の決済で海外に送金する企業を取り締まることもできる。

 さらに、政治的には「ドルの呪縛からの解放」を実現することができる。

 貿易でドルを使い取引する場合、米国の銀行を経由する必要があり、情報が米当局に筒抜けになるおそれがある。昨年、中国の通信機器大手華為技術(ファーウェイ、Huawei)の孟晩舟(Meng Wanzhou)最高財務責任者(CFO)がイランとの違法な取引に米国の金融機関を巻き込んだとする容疑でカナダ政府に拘束される事件があったが、米国の捜査当局が国際決済システムで得た情報を容疑の根拠にしたという見方がある。また、米国はこれまで対立する国や組織に「ドルを使わせない」ことで、経済制裁を加えてきた。通貨のデジタル化で人民元の国際化を進めれば、ドル覇権に対抗することができる。

 一方で懸念もある。中国政府が金の取引をすべて把握できるデジタル人民元が「プライベートなやりとりもすべて監視される」と受け止められれば、国際的に普及する足かせとなる。金融ハッカーやサイバーテロなどの問題も予想され、セキュリティー技術の向上が必要とされる。そうした問題を含め、デジタル人民元の行方に今後も目が離せない。(c)東方新報/AFPBB News