【12月23日 東方新報】ジャーナリストの伊藤詩織(Shiori Ito)さんが、元TBS記者の山口敬之(Noriyuki Yamaguchi)氏から性暴力を受けたと訴えた裁判で、東京地裁が山口氏に賠償を命じた判決が、中国で注目を集めている。――新聞やネットの大手メディアは、「実名で性被害を公表した女性が勝訴」と大々的に報じ、中国版ツイッターの微博(Weibo)で、「伊藤詩織勝訴」のハッシュタグを付け、「勇気を出して闘った彼女を尊敬する」という称賛が相次いでいる。

 伊藤さんが2017年に出版した『Black Box』は中国でも翻訳され、今年4月に『黒箱:日本の恥』というタイトルで出版されている。「日本の恥」という副題が付いたのは、英BBCが2018年に伊藤さんを取り上げた番組「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」の題名から引用したようだ。手記は中国でも話題を呼び、出版に合わせて北京や上海で行われた伊藤さんのトークショー会場には、多くの若者が詰めかけた。

 注目を集めた理由の一つは、伊藤さんに訴えられた山口氏が自民党政権と密接な関係にあるとされる人物だからだ。中国共産党機関紙の「環球時報(Global Times)」は「安倍首相(Shinzo Abe)の『御用記者』による性暴力事件で被害女性が勝訴」と報じた。中国語でも「御用文人」(御用学者)「御用打手」(権力の手先)というように、「御用」の意味は同じだ。記事では「山口氏は安倍首相の伝記を書いている政治報道の御用記者」「日本の警察は山口氏の逮捕状を取ったが、執行しなかった」「山口氏が逮捕されないのは、安倍政権が警察を抑え込んでいるためだと人々は疑っている」と詳細に書いている。

 ネットメディア「澎湃」は、「単なる勝訴ではなく、『黒箱』を打破した伊藤さん」と記事を配信。政治と警察、マスコミが一体となった「ブラックボックス」に若い女性が一人で立ち向かい、日本社会の病を打ち破ったと伝えている。

 一方、微博などで伊藤さんをたたえる市民は「男社会に立ち向かった」ことに力点を置いている。中国で伊藤さんと同じような性被害を受けたとしても、実名で本を書き、裁判に訴えることは難しいからだ。

 社会主義国の中国は建国以来、「男尊女卑」の封建社会からの解放と男女平等を訴えてきた。中国では共働きが当たり前で、警察や軍隊でも女性の割合は多い。男性が料理や炊事をするのも常識だ。保育園では朝食、昼食、夕食すべてを園児に提供することが普通で、送り迎えを父親がすることも多い。日本では長らく議論が続いている「育児と仕事の両立」は、中国ではある程度、すでに実現しているといえる。家事に縛られず、経済力もあることから離婚率は4割近く、妻から夫に離婚を切り出すことが多い。
 
 それでもやはり、男尊女卑の傾向がなくなっているわけではない。政界や企業のトップは男性がほとんどで、恋人や夫婦の間で男が暴力をふるう問題は今も深刻だ。日本では自殺は中高年の男性が多いが、中国では農村部の女性が多い。職場などで性的被害を受けても、泣き寝入りせざるをえないケースもある。日本や多くの国と同様、男性が女性を抑圧する構図を解消できてはいない。それを肌で感じている中国の女性たちが伊藤さんを「自分たちの代弁者」とみなし、喝采を揚げている。(c)東方新報/AFPBB News