【12月20日 AFP】英国で、反ユダヤ主義をめぐって野党・労働党を非難し優位に立ってきた与党・保守党が、党内にはびこる反イスラム主義への対応が不十分だと批判を浴びている。

 ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)首相率いる保守党はこのほど、調査の必要がかねて指摘されていた党内の差別について、報告書を公表した。平等な人権に関する監視機関の元委員で心理学者のスワラン・シン(Swaran Singh)教授が率いたこの調査は、しかし、保守党の議員・党員の間に見られる反イスラム的言動の数々や、長年指摘されてきた懸念に対処するには大まかすぎると非難される結果となった。

 モスク(イスラム礼拝所)や慈善団体など数百組織を統括する「英国ムスリム評議会(MCB)」は、調査について「差別に対する認識が甘く、より一般化した視点で差別を見ることで、保守党内にイスラム嫌悪が広がっている事実を示すあまたの証拠を無視するよう構築されている可能性が高い」と批判。「体裁のいいごまかし」に終わる懸念を指摘した。

 また、保守党の元幹事長でイスラム教徒の女性として初めて英政府閣僚を務めたサイーダ・ワルシ(Sayeeda Warsi)氏も、BBCラジオで「実際に起きたことについても、それらの被害の大きさについても、差別問題のひどさや取り組みの不十分さについても、全く検証されていない」と調査を批判した。ワルシ元幹事長はかねて保守党内の反イスラム的傾向について公に指摘してきた人物だ。

■議員が反イスラム投稿、党内に広がる拒否感

 近年、英労働党は反ユダヤ主義的だとの批判が広がっており、先の総選挙での同党の敗北はこれが一因とされる。しかし今、保守党の差別問題に人々の注目は移りつつある。

 英紙ガーディアン(Guardian)は先月、保守党の現職議員と元議員25人がソーシャルメディアにイスラム嫌悪や人種差別的な投稿をしたと報じた。投稿の中にはモスクの禁止を要求するものや、イスラム教徒を「野蛮」「内なる敵」と表現したものがあったという。

 ジョンソン首相も、外相時代の寄稿記事の中で、ベールをかぶったムスリム女性は「郵便ポスト」のようだと記したことが差別の助長につながったと批判されている。記事は、女性には何を着用するか選ぶ権利があると擁護する内容だったが、反人種差別団体「Tell MAMA」は、記事によって反イスラム教的な事件が「急激に増加した」と指摘している。

 英調査会社ユーガブ(YouGov)が反人種差別団体「Hope not Hate」の委託で行った調査では、保守党の議員・党員の40%が、欧州連合(EU)を離脱(ブレグジット、Brexit)後に移民政策を変更してイスラム教徒の流入を制限するべきだと回答した。また37%が、イスラム過激派のテロリストによって英国に対する敵意が国内のムスリム社会に広がっていると答え、43%がイスラム教徒には首相になってほしくないと回答した。(c)AFP/Alice RITCHIE