■芸術家にも多数のファン

 ピソティエールが「反道徳的な」出会いの場となっていたことは、仏詩人ポール・ベルレーヌ(Paul Verlaine)やアルチュール・ランボー(Arthur Rimbaud)ら芸術家の興味をそそった。一部の学者は、仏文豪マルセル・プルースト(Marcel Proust)も公衆トイレでの享楽にふけっていたと考えている。

 米映画監督アルフレド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)は、映画『サイコ(Psycho)』で、ハリウッド映画としては初めて水洗トイレを登場させた。ヒッチコックはピソティエールのファンで、1969年にパリを訪れた時は、ピソティエールでインタビューをやると言い張ったほどだった。

 特別展では、ピソティエールを実際に使っていた人たちの証言も紹介されている。ある年配の男性はそこで生涯のパートナーと出会ったと明かしている。また、ジャンピエールさん(73)は、当時を懐かしそうにこう振り返る。「ダンサーやファッションデザイナー、俳優、歌手とそこで出会った。(中略)悪臭漂う公衆トイレで出会った数分後には豪華なアパートの一室にいた。冒険だった!」

■復活計画

 現存するピソティエールは、パリのサンテ刑務所(Sante prison)の外壁の前に設置されたものだけだ。

「社会衛生」の観点から閉鎖を求める運動が常に行われてきたが、たとえうさんくさくてもピソティエールはパリのある種の象徴だったとマルテン氏は言う。

 昨年、パリにピソティエールを復活させる計画が持ち上がった。パリでは壁に向かって放尿する男性が後を絶たず、長年問題になっているためだ。しかしフェミニストらが、女性用トイレがないのは差別だと主張し、計画は撤回された。

 公衆トイレの歴史において、女性は「長らく忘れられた」存在だったとマルテン氏は指摘した。(c)AFP/Fiachra GIBBONS