【12月14日 東方新報】中国のSNSでメーキャップ動画を投稿する人気ブロガー、宇芽(Yuya)さん(28歳)が、「女性に対する暴力撤廃の国際デー(International Day for the Elimination of Violence against Women)」の先月25日、自分自身がドメスティックバイオレンス(DV)被害者であった身の上を示す動画をアップし、中国社会で大きな反響を呼んでいる。相手は美しく温かい絵を描く人気イラストレーターの「沱沱」(Tuotuo)さん(44)で、宇芽さんは「もう私のような人間をつくりたくない」と訴え、各メディアとのインタビューで赤裸々にその実態を打ち明けていた。

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 宇芽さんがアップした動画には、エレベーターの中で宇芽さんが沱沱さんに殴られ引きずり倒され、足をつかまれエレベーターから引っ張り出される様子が映っていた。沱沱さんは、3回の離婚歴があり、いずれもDVで結婚生活が破たんした「常習犯」だった。中国中央テレビ(CCTV)の特集番組でインタビューに応じた宇芽さんは、「出会った当時はパーフェクトな男性だと思った。それが悪夢の始まりだった」と振り返っている。

 半年の間に5回暴行を受け、そのうち4回はなぜ自分が暴力を受けるのか理由すらわからなかったという。付き合い始めて2週間たったころから、ささいなことで顔を殴られ、何か問いかけるだけで殴られることもあったので、話しかけることも怖くなったという。「最初に暴行を受けたときに別れようと思ったものの、やはり愛情があり、もう大丈夫ではないか、と期待してしまうのだ」と、当時の心情も打ち明けた。暴行はエスカレートし、数十回顔をなぐられたことや、靴で顔を踏みつけにされたこともあった。最後の暴行のとき、相手から「もし、DVを告発したら自殺してやる。遺書にお前に殺されたと書いてやる」とどう喝されたという。

 その後、9月に別れを決意。相手からは脅迫メールが絶えず届いたが、その事情を彼女の友人たちが知るようになったことで、告発する決心をしたという。沱沱さんからDVを受けて離婚した前妻は「私が警察に通報すれば、彼女の悲劇は避けられたのに、本当にごめんなさい」と話している。しかしながら、前妻も「離婚後、お前を殺してやる、お前の一家全員殺して、家を焼くといった脅迫を受けた」とその恐怖を語り、DVを警察に通報することの難しさを訴えていた。

 中国ではDV禁止法が2016年3月に施行されており、社会に「DVを許してはいけない」という世論は形成されつつある。だが、家庭内問題に公権力が関与することの難しさや、関係機関の協力体制モデルはまだまだ成熟しておらず、もともと男尊女卑の伝統的価値観が農村を中心に残っている。中華全国婦女連合会の調査によれば、中国人女性の4人に1人がDV被害の経験を持つという。

 北京市東城区(Dongcheng)でDV被害女性支援のセンターを創設した李瑩(Li Ying)弁護士によれば、法的にはまだまだ不備があり、性暴力や経済的支配といった暴力に対する定義が明確でなく、専門家の育成も足りず、DVに対する法解釈とDV禁止法の運用が追い付いてないことが問題だという。DVの訴えについて司法が認定する率はまだ20%ほどにとどまっている。またDVによって受ける肉体の傷だけでなく、心の傷に対するケアへの理解や体制も不足しているという指摘も。人気ブロガーでもある宇芽さんの告発は、こうした中国の根深いDV問題に対して、改めて世論を喚起したといえる。(c)東方新報/AFPBB News