■人生を一変させた口論

 米国で銃暴力による死者が最も多い都市の一つ、東海岸メリーランド州ボルティモア(Baltimore)。2007年に当時19歳だったアントニオ・ピンダー(Antonio Pinder)さんは、ホームパーティーに出かけた母親を迎えに行った。

 パーティー会場の家に入ったピンダーさんが若い女性と話し始めると、そのことで他の客が気分を害し、口論となった。次の瞬間、ピンダーさんは1発の弾丸が自分の胴の左下を貫き、腰から飛び出て行ったのを感じた。

「路地を走り抜けて、とにかくその場から離れようとした。体に穴が開いたままだった」

 現在31歳となったピンダーさんは、背が高く体格も良い。だが健康的な外見とは裏腹に今も治療を受けている。そのために何年も職に就くことができず、自信も打ち砕かれた。

 体を貫いた弾丸によって、腸の半分はめちゃくちゃになった。「毎日、一日中、痛みがある。寝ようとするときや、雨が降っているときは、ベッドで体を丸めている。ずっと入退院を繰り返している」

 食事は少量しか取れない上、赤身の肉など避けなければならない食べ物がたくさんある。さもなければ、嘔吐や痛みにまた何時間も苦しむ羽目になる。

 フルタイムの仕事は体が耐えられないだろうと、医師から告げられた。そのため、婚約相手と6人の子どもを養うのに四苦八苦している。「親として婚約者や子どもたちを何度も失望させている気がする」「悲観している」とピンダーさんは語った。