【11月2日 AFP】鉄製の扉の向こうの監房は、うつろな目をした人であふれかえっていた。やせて骨ばった体にオレンジ色の服を着た虜囚たちが、床に隙間なく横たわっている。

 AFPはこのほど異例の機会を得て、シリア北東部ハサカ(Hasakeh)でクルド人勢力がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘員とされる容疑者を拘束している施設の一つを取材した。

 10月初めにトルコ軍が開始したシリアのクルド人勢力に対する攻撃によって、この地域は混乱状態に陥っている。ISの戦闘員とされる者たちを閉じ込めている鉄の扉がどれくらい頑丈にできているかということに、世界中が神経をとがらせている。

 クルド人勢力はトルコ軍による侵攻の可能性と、それによって収容施設に拘束されている最も狂信的なテロリストたちが脱走する危険性を、これまでも繰り返し警告してきた。そして実際にトルコ軍は10月9日、シリアに侵攻し、この懸念は現実のものとなった。ある米高官によると、既に100人以上が収容施設から脱走しているという。だが、ハサカの収容所長は、ここからは誰も脱走していないと断言した。

 ISは2014年、イラクとシリアにまたがる支配地域で「カリフ制国家」の樹立を宣言。以降この地域で残虐行為を繰り広げてきた。集団処刑、レイプ、奴隷化、拷問などが行われ、ISはプロパガンダに使うためにそれらの多くを撮影していた。

■最高指導者の死も知らず

 AFPが訪れた施設には、5年前のISの呼び掛けに応じたジハーディスト(聖戦主義者)らが漂着してきており、シリア、イラクだけではなく英国、フランス、ドイツなどの出身者5000人が収容されていた。彼らは数か月以上も日の光を見ていない。

 収容施設には10代の若者も拘束されている。一つの監房は、ISに加わり戦闘員として訓練を受けていた子どもたちに割り当てられていた。ISはプロパガンダでこの子どもたちを「カリフの卵」と呼んでいた。

 収容施設の部屋には、灰色のウレタン・マットレスが冷たい床を覆うように敷かれている。部屋の片隅には、目隠しが半分しかない簡素な落下式便所があった。悪臭は近くにある病棟にまで漂っていた。

 被収容者たちは外の世界で何が起こっているのか、ほとんど知らない。10月27日にはドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ(Abu Bakr al-Baghdadi)容疑者が死亡したと発表したが、誰もこのニュースを聞いた者はいない。

 彼らの多くは骨と皮ばかりにやせ細っている。運が良ければベッドで横になれるが、その他大勢は体を切断した箇所や包帯で巻かれた傷をさらしたまま、床に直接寝ている。3分の1近くは負傷や、肝炎やエイズ(AIDS)などの疾病で治療が必要だという。