マッチョをパロディー化、固定観念に挑むドラァグキング
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【10月27日 AFP】女優として活躍するメロディー・ルソー(Melodie Rousseau)さんは、夜になるとドラァグ(異性装)キングとして、カナダ・モントリオールのナイトクラブの舞台に立つ。
舞台に立つ理由は芸術的表現のためだけではない。ルソーさんたちにとってドラァグキングを演じることは、知名度の高いドラァグクイーンという圧倒的な存在の影から抜け出すための政治的手段となっているのだ。
30代前半のルソーさんは2時間半かけて、ドラァグキング「ロック・ビエール(Rock Biere)」に変身する。細面の顔に化粧ブラシで眉や輪郭を描いて、もう一人の自分を作っていく。徐々にロック・ビエールの男性的な下顎の線が現れる。ひもで胸を固定し、鍛えられた腹筋の形にし、偽の毛を胸と顎に着ける。
「女性であることを消し去って、男らしい男を作り出す」とルソーさんは笑った。
「ル・ポールのドラァグレース(RuPaul's Drag Race)」のようなショーのおかげで、ドラァグクイーンは有名となったが、ドラァグキングはまだ認知されていない。
ベテランのドラァグキング、チャーリー・ドビル(Charli Deville)さんによると、ケベック(Quebec)州にドラァグキングは片手で数えるほどしかおらず、モントリオールのバーに定期的に出演しているドラァグキングはわずか4人だという。一方、ドラァグクイーンは約80人いる。
ルソーさんは「女性が男性を演じることには、政治的側面がもちろんある」「女性があえて優位な性(である男性)に変身するのは少々危険なことだ」と語る。「私が真に取り組んでいるのは、男性に対する批判であり、パロディーでもある」
舞台でロック・ビエールは、ドラァグクイーンのクリスタル・スリッパーズ(Crystal Slippers)と共演した。ロックはクリスタルを粗野で下品なやり方でものにしようとし、クリスタルが何度もそれを拒否すると、観客は爆笑の渦に包まれた。
通常ドラァグショーは、ドラァグクイーンがもてはやされるゲイバーで行われる。
社会学者のデイビッド・リセ(David Risse)氏は、ドラァグキングは時に弱々しく自尊心を欠いた男性を演じるが、ゲイが中心の観客はそれにイライラさせられると指摘する。
「ドラァグクイーンはパロディー化された女らしさを思うままに演じている。一方、男らしさという概念を演じるのには微妙なバランスが求められる」とリセ氏は説明する。
ルソーさんは「この超男らしいマッチョな男性を演じることで、日常生活では女性としての自信を持てるようになった」と語り、自らの女性らしさを受け入れる助けにもなっていると続けた。(c)AFP/Aicha BELKHODJA