【11月3日 AFP】米ニューヨークのかび臭い倉庫の中で、レコードプレーヤーの針がターンテーブルに下りる。オブスキュア系バンド、ザ・モチーフス(The Motifs)のリバーブ音が鳴り響き、倉庫内に並ぶポップ音楽最大のコレクションに当たって跳ね返った。

 この洞窟のような場所は、「アーカイブ・オブ・コンテンポラリー・ミュージック(ARChive of Contemporary Music)」として知られる独立系の私設音楽ライブラリーで、ロウアー・マンハッタン(Lower Manhattan)、トライベッカ(Tribeca)地区の目立たない通りにある。300万点以上の音源を所蔵しているとされ、レコード盤を中心にCDやカセット、さらに音楽関連グッズの膨大なコレクションが存在する。

 ARChiveの共同創設者、B・ジョージ(B. George)氏はレコードの山の背後の机から、「想像もできないようなものを、絶えず発見している」とAFPの取材に語った。

 ストリーミング配信やデジタルメディアなど、すぐ消えてなくなるはかなさが支配する時代では、未来の音楽鑑賞の鍵となり得る、フィジカル・コピー(形のある記録媒体)を保管するARChiveのような場所が、絶対不可欠な存在なのだ。

 2008年夏に米ロサンゼルスのテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド(Universal Studios Hollywood)」で起きた火災で、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)やルイ・アームストロング(Louis Armstrong)、ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)、エリック・クラプトン(Eric Clapton)といった偉大なミュージシャンたちの音源、約50万曲分が焼失した。この火災は、フィジカル・コピーを保護する重要性を浮き彫りにした。

 焼失した一部には、収益性の高い再発盤や遺作盤の原盤となるマスター録音が含まれていた。それに代わる物はないが、ジョージ氏によると、レコード会社各社が同氏の保管庫にやって来て、オリジナルにできるだけ近いバージョンを聴いているという。

 例えばナイジェリアのスーパースター、フェラ・クティ(Fela Kuti)の再発盤2枚は、ARChive所蔵のレコード盤から制作された。

「コレクションを完全なまま保存することは本当に大切だ」と言うジョージ氏がこのアーカイブを始めたのは1985年。ニューヨークの古い倉庫群に安く移住しようとするアーティストらが、この地区に集まり始めたころだった。

 このアーカイブに保管されていたロックのLP盤は一時、12万5000枚を数えた。コレクションのうち1500枚は、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)らアーティストのサイン入りだ。