■「カタールはもう勘弁」?

 教授によれば、開幕からしばらく空席だらけだった陸上スタジアムを見て、国際サッカー連盟(FIFA)も、チケット販売戦略を明確に示すようカタール側に求めていくつもりのようだ。

 チャドウィック教授は「人々が知りたいのは、快適な宿泊施設はあるのか、ビールは買えるのかといったことです」「チケット戦略を軸に、どのようなイベントの生態系を構築するのか。カタールは、ここで開催する理由を示す必要があります」と話している。

 カタールW杯の組織委員会は、世界陸上の観客動員の苦戦について無言を貫いているが、保守的なカタールのアルコール価格の高さなど、W杯に対する不安は必死に抑え込もうとしている。性的少数者(LGBT)のファンの安全面もそうで、世界陸上の前には、W杯向けのインフラが急速に改善していることを国外メディアにアピールした。

 もう一つ、世界陸上で繰り返し問題になったのがロード競技の酷暑だ。うだるような暑さと湿度の中、市街地でマラソンや競歩に臨んだ選手からは、主催者への辛辣(しんらつ)な言葉も聞こえた。

 出場68人中28人が棄権した女子マラソンで、9位に入ったカナダのリンジー・テシェール(Lyndsay Tessier)は、ライバルたちが次々に脱落していく様子に「本当に怖くなったし、気持ちがなえた」と話している。しかしW杯の組織委員会は、自分たちは空調の利いたスタジアムで冬に開催するから、気温の心配はないと強調する。

 渋滞も問題になった。出場選手やVIPは警察の先導を受けられたが、幹線道路や主要な交差点が工事中だったことで、観戦に訪れた人たちは街の至る所でひどい交通渋滞に巻き込まれた。

 世界陸上のメインスタジアムからほんの数分の場所で、地元のアル・サード(Al-Sadd)対サウジアラビアのアル・ヒラル(Al Hilal)のサッカーの試合が行われた際には、さらに状況が悪化した。世界陸上でも、ムタズ・エサ・バルシム(Mutaz Essa Barshim)が男子走り高跳びで2連覇を達成した10月4日には、地元の英雄を一目見ようと数千人がスタジアムに駆けつけたが、それでもサッカーの試合で大渋滞が起こったことは、カタールでの両スポーツの人気の差を表している。

 行政への重圧も高まっていて、年内に全37駅が開業するという約束の地下鉄の駅は、10月時点でわずか13駅しか稼働していない。

 チャドウィック教授が言うには、世界陸上で問題が噴出した今、カタールは「薄い氷の上を滑っている」危険な状態だという。

「W杯に向けた軌道修正が必要です。でなければ大会後、今後の招致に関する疑問が出てくるでしょう」「各スポーツの統括団体が『カタールはもう勘弁』と言って去っていけば、この国はまた、地政学的に危うい立場に置かれるのですから」 (c)AFP/Gregory WALTON