■カギは大学生たち

 この奇跡のような経済成長で、あまり触れられていない「秘密」がある。一つは「猛烈に勉強する中国の大学生たち」だ。1980年代当時、中国の大学生といえば、全員が相部屋の寮生活で食事も質素。それでもひたすら勉強に励み、夜の消灯時間になっても廊下の非常灯で教科書を読んでいた。時代が下ると、日本や欧米に留学して最新技術や知識を学んで帰国する「海亀族」も増えてくる。「坂の上の雲」を目指す日本の明治時代のように、ハングリーな若者たちが必死に勉強し、社会に出て成長をけん引した。

 日本の終身雇用・年功序列システムと対照的な「能力主義」も、経済成長を押し上げた。優秀であれば若くても給料は高く、転職してステップアップを目指すことが当然。「起業して、失敗して会社勤めに戻り、また起業」と常に前を目指す中国人は多い。「豊かになりたい」という個人の欲望を社会がシステムとして受け入れている。

 政府の「言語政策」も触れないといけない。数千年の歴史がある漢字を極端に省略した「簡体字」を導入し、誰でも読み書きできるようにした。さらに共通語「普通話」を全国に浸透させ、田舎の若者が出稼ぎで北京や上海に来ても意思疎通ができるようにした。同じ人口大国のインドでは、今も英語やヒンディー語が通じない地域が多く、主要言語の字も書けない人が多いのと対照的だ。

 もちろん、今後の中国経済がバラ色とは限らない。最大の問題は「少子高齢化」だろう。働き盛りで税金を納める15~60歳の労働力人口が多く、社会保障費が必要な高齢者が少ないという「人口ボーナス」の期間は既に終わった。長く続いた「一人っ子政策」の反動がこれから大きくのしかかる。環境問題や福祉政策のウエートも大きくなる一方だろう。現在の米中貿易摩擦が象徴するように、中国が経済大国になればなるほど、諸外国とのあつれきも続くことになる。

 一人っ子政策で、中国の若者も昔ほどハングリーではなくなっているという。それでも、日本の学生に比べれば相変わらず圧倒的に学業に励んでおり、「人生の勝者になりたい」という貪欲さはむしろ強まっている。米国にいる中国人留学生は、日本人留学生の10倍かそれ以上というデータ一つをもっても、その勢いの差が分かるだろう。中国の「成長のエンジン」は今なお高回転を続けている。(c)東方新報/AFPBB News